甲状腺の病気

公開日:2016/05/17

最終更新日:2024/12/10

鈴木 眞理 先生

この記事を監修したドクター

政策研究大学院大学名誉教授 跡見学園女子大学 心理学部臨床心理学科 特任教授鈴木 眞理 先生

共著:国立成育医療研究センター

バセドウ病や橋本病など、甲状腺の病気は女性にとても多く、月経異常や不妊、流産の原因になることもあります。異常を感じた時は内分泌科など甲状腺を専門的に診られる診療科を受診しましょう。

女性に多い甲状腺の病気

甲状腺はのどぼとけの下にある蝶々の形をした臓器で、脈拍や血圧や体温を上げ、新陳代謝を促進する甲状腺ホルモンを出しています。甲状腺の病気は、女性にとても多い病気で、月経異常や不妊、流産の原因になることも多く、注意したい病気です。

甲状腺の病気には、甲状腺全体が腫れるバセドウ病や橋本病、しこりが触れる良性の腫瘍や嚢胞、がんがあります。 甲状腺に異常を感じた場合は、内分泌内科、内分泌代謝科、内分泌外科を受診するのがいいでしょう。これらの病気について、症状、原因や検査と治療法を紹介します。

バセドウ病

バセドウ病は、甲状腺ホルモンが過剰に作られる甲状腺機能亢進症の中の代表的な病気です。人口1000人あたり0.2~3.2人、20~30代の若い女性に多く、男女比は1:3~5といわれています。

バセドウ病は自己免疫疾患の一つです。自己免疫疾患とは、細菌やウイルスなどから体を守るための免疫が、自分の臓器を標的にしてしまうことで起きる病気の総称です。甲状腺ホルモンは、下垂体の甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone:TSH)が甲状腺のTSH受容体を刺激することによって分泌されています。バセドウ病では、自分のTSH受容体を刺激する免疫ができてしまい、甲状腺ホルモンが過剰に作られます。

甲状腺ホルモンは交感神経や代謝を刺激するので、動悸、食欲が増進しているのに体重が減少してしまう、指の震え、暑がり、汗かき、疲れやすい、軟便・下痢、筋力低下、精神的に落ち着きがなく、怒りっぽくなります。女性では月経が止まったり、流産したりすることもあります。目の症状は特徴的で、上まぶたがあがって眼が大きく突出したように見え、甲状腺は全体的に大きく腫れます。血液検査で血中コレステロール値が低すぎる、心電図で心房細動という不整脈がきっかけで見つかることがあります。

バセドウ病の診断には血液検査や、超音波検査を行います。血液検査では、血液中の甲状腺ホルモンである遊離T4,遊離T3と甲状腺刺激ホルモン(TSH)およびTSH受容体抗体(TRAb)を測定します。血中遊離T3、遊離T4が高く、TSHが低く、TRAbが陽性であることに加え、甲状腺の超音波検査で確認して、バセドウ病と診断されます。

治療は、内服薬による薬物療法、手術、放射性ヨード治療(アイソトープ治療)があります。 まず、抗甲状腺薬の内服治療を行います。しかし、薬物の副作用が生じたり、完治しない場合もあります。アイソトープ治療とは、131Iという放射性ヨードのカプセルを飲む治療で、この131Iが甲状腺に特異的に取り込まれて、甲状腺の細胞の数を減らすことで、甲状腺ホルモンの分泌が抑えられます。手術は、約1~2週間の入院で、甲状腺を全部取ることがほとんどです。

橋本病(慢性甲状腺炎)

橋本病は最も頻度の高い甲状腺の病気で、男女比は1:20~30、30~40歳代で発症することが多く、血液検査では異常があっても、臨床症状がない潜在性の場合も含めると、成人女性の10人に1人、男性の40人の1人と非常に多くの方が罹患する病気です。
橋本病も自己免疫疾患の一つで、免疫の異常によって甲状腺に慢性的に炎症が起こるので慢性甲状腺炎とも言われます。炎症によって甲状腺組織が少しずつ壊され、甲状腺ホルモンが作られにくくなると甲状腺機能低下症になります。ただし、全員の甲状腺ホルモンが少なくなるわけではなく、甲状腺機能低下症になるのは4~5人に1人未満です。大部分の人では甲状腺ホルモンは正常に保たれています。

甲状腺ホルモンが不足しないように下垂体から甲状腺刺激ホルモン(TSH)が過剰に出るので、甲状腺が刺激されて全体的に腫れます。その結果、喉の圧迫感や違和感が生じることがあります。稀に、甲状腺全体が縮むこともあります。甲状腺機能低下症になると、全身の代謝が低下して、無気力、疲れやすさ、全身のむくみ、寒がり、体重増加、便秘、かすれ声などが生じます。うつ病や認知症と間違われることもあります。女性では月経過多になることがあり、血液検査では、血中コレステロールが高く、肝機能異常を認めます。時に、甲状腺が破壊されて甲状腺ホルモンが血中に流出して、一時的に甲状腺ホルモンが過剰となり、「バセドウ病」に似た症状がでることがあります。

橋本病の診断には、採血で甲状腺自己抗体である抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(抗TPO抗体)か、抗サイログロブリン抗体を測定します。これらが陽性で、甲状腺の超音波検査で確認して診断します。

血中遊離T3、遊離T4、TSHなどのホルモン値が正常の橋本病では、原則的に治療は必要ありません。甲状腺機能低下症がある場合は合成T4製剤(レボチロキシン)の内服を行います。妊娠希望、あるいは妊娠のわかった女性では、臨床症状はなく、血中遊離T3、遊離T4が正常でTSHが基準の上限値をこえる程度(潜在性甲状腺機能低下症)であっても、流早産や妊娠高血圧症のリスクが高く、治療によりそのリスクを改善できる可能性があるので、合成T4製剤(レボチロキシン)の内服が勧められます。

甲状腺のしこりがある病気

甲状腺のしこりには、良性と悪性のものがあります。
良性の病気には、濾胞腺腫(ろほうせんしゅ)、腺腫様(せんしゅよう)甲状腺腫、嚢胞(のうほう)という病気が考えられます。

悪性(甲状腺がん)では、乳頭がん、濾胞(ろほう)がん、未分化がん、髄様(ずいよう)がんなどがあります。甲状腺がんの90%が乳頭がんで、1:3で女性に多く、あらゆる年齢に見られます。

いずれの甲状腺がんの場合でも痛みはなく、偶然に健康診断で、また、胸部CT検査、PET(ポジトロンエミション断層)検査で発見されることが増えてきました。実は、他の病気で亡くなった方を解剖した時に、10%くらいの割合で甲状腺の乳頭がんが見つかります。乳頭がんは非常にゆっくり成長するため、体の中にあっても無症状だからです。

超音波検査と超音波下での穿刺吸引細胞診を行って、その細胞を病理診断することで診断されます。

良性腫瘍は原則的に経過観察します。ただし、腫瘍が大きく美容面で気になる場合や圧迫症状が強い場合、あるいは悪性腫瘍の合併が疑われる場合などは手術を行います。表面から針を刺して腫瘍内にエタノールを注入して腫瘍を壊死させるPEIT(percutaneous ethanol injection therapy)という治療が行われることがあります。乳頭がんは、手術で甲状腺の一部または全摘出術や所属リンパ節の郭清術を行います。術後に放射性ヨード内容療法を行うこともあります。乳頭がんの中でも腫瘍の大きさが1cm以下で、明らかな転移や周囲への浸潤を認めない「超低リスク乳頭がん」の場合は、非常にゆっくりと成長することから、診断されてもすぐに手術を行わずに定期的に超音波検査で経過観察することが勧められます。

もっと知りたい! ドクター監修の記事を続けて読む