女性ヘルスケアと予防接種

公開日:2016/05/25

最終更新日:2024/08/01

国立成育医療研究センター

この記事を監修したドクター

子どもと妊婦さんのための病院と研究所国立成育医療研究センター

21世紀は「予防医学」の時代といわれています。ワクチン接種によって予防できる疾患に関する知識は性差や年齢を問わず必要ですが、女性は特に女性特有の予防医学の知識を持つことが重要になります。また、女性ご本人だけでなく、ご家族など周りの方々もワクチンを接種することで感染を予防していくことも大切です。

女性にとって重要なワクチン接種

ワクチン接種によって予防可能な疾患をvaccine preventable diseases: VPDといいます。女性特有の重要なVPDには、妊娠時の母子感染が問題となるものと妊婦の重症化が問題となるもの、また妊娠中のワクチン接種で出産後の赤ちゃんの病気の感染や重症化を防ぐものなどがあります。母子感染が問題となる病原体は風しんウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、B型肝炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス(HPV)であり、妊婦の重症化が問題となる病原体はインフルエンザウイルス、麻しんウイルスなどが挙げられます。妊娠中にワクチン接種することで生まれてきた赤ちゃんの病気の感染や重症化を防ぐことができるものとしては、RSウイルスなどがあります。妊婦もしくは妊娠の可能性がある女性に対してワクチンを接種する場合は十分に注意を払う必要があります。一方で、妊婦はインフルエンザ感染症のハイリスク群ですので、不活化ワクチンであるインフルエンザワクチンの優先対象です。積極的に接種を行いましょう。

風疹ワクチンには“接種不足の世代“があります

日本の風しんワクチン接種事業には時代の変遷があります。その過渡期に予防接種が十分に実施されていない世代があるのです。風しんワクチンは生涯で2回の接種が推奨されていますが、2000年以前に生まれた方は2回の接種が完了していない場合があり、実際、風しん抗体保有率も低いのです。風しんは特に、妊婦がかかることで胎児に先天異常が生じる可能性があります。特に、これから妊娠を希望する方や、そのパートナーなど同居家族の方は、妊娠前に抗体検査や風しんワクチンの接種を済ませておきましょう。また、上記の年齢に該当する方も積極的な風しんの抗体検査や風しんワクチン接種を行うことが予防医学の観点から重要です。なお、風しんワクチンは生ワクチンとなるため、妊娠中の接種はできません。また、接種後は2か月間避妊をする必要があります。

がん予防のためのワクチン

子宮頸がんをはじめとするHPV関連疾患は近年、HPVワクチンの開発により予防できる疾患となってきました。HPVワクチンは、女性にとって脅威である子宮頸がんの予防ワクチンですので、そのインパクトは極めて大きく、世界中で接種されています。子宮頸がんをはじめとするHPVに関連する疾患は、生命が危険にさらされるだけでなく、妊娠する能力を失うリスク、母子感染のリスクも考えられます。HPVワクチンは、女性にとっては最も重要なワクチンの一つと言えます。

「がん予防を可能にするHPVワクチン」

子宮頸がんは、国内で2000年以降、発症率、死亡率ともに年々増加しています。子宮頸がんの原因のほとんどがHPV感染です。そして、HPVはほぼすべての成人女性が感染しています。そのうちの一部の女性が子宮頸がんを発症します。そのため、日本人女性の約76人に1人が子宮頸がんになります。一方、子宮頸がんと関連するハイリスクHPV感染を予防するためのHPVワクチンが開発されました。国内では、2013年4月から、HPV(子宮頸がん)ワクチンが定期接種化されています。定期接種ワクチンとは、予防接種法という法律で接種することが勧められているワクチンで、原則公費で接種が受けられます。HPVワクチンは、世界中の多くの国が、日本の定期接種と同等のワクチン制度で接種が行われており、それらの国では既に子宮頸がんは減少しています。日本国内では小6~高1の女子が定期接種の対象となり、すべての自治体で公費で接種ができます。HPVワクチンによって前がん病変を含めた子宮頸がん発症のリスク自体を下げながら、定期的な子宮頸がん検診を受けて、前がん病変の出現の有無を確認していくことが重要です。

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