思春期のやせ

思春期(9~19歳)は一生の健康の土台を作る時期

日本人女性は、10歳から14歳に急速に身長が伸び、次いで体重が増えて、平均12.3歳で初潮を迎えます。栄養が不足すると、遺伝的に決っている最終身長まで背が伸びなくなります。一定以上の身長が必要な職業を選ぶ場合は不利です。

体脂肪から出るレプチンというホルモンが脳を刺激して月経を起こしているので、体重(体脂肪)が少ないと、女性ホルモン不足で初潮が遅れたり、月経不順になったりします。女性ホルモンは女性らしい体型や皮膚・頭髪を維持して、情緒や脳機能にも影響を与えます。

さらに、大切なのは、14~15歳に全身の骨カルシウム量がピークになります。これをピークボーンマス(Peak bone mass)と言います。いわゆるカルシウム倉庫の大きさが決まります。皮膚で日光の紫外線で作られたり、魚から摂ったりするビタミンDは食事中カルシウムの吸収を促進して、骨に取り込まれるようにします。この過程は炭水化物などによるエネルギーが支え、骨の網目の土台はタンパク質のコラーゲンでできています。

そして、エストロゲン(女性ホルモン)は骨カルシウムが溶けだすのを適切に調整して、一定量を保っています。女性ホルモンが低下して閉経すると、溶け出す骨カルシウムが増えて、骨がスカスカになって骨粗鬆症になります。骨折しやすくなり、寝たきりや要介護になり、平均寿命は延びても、自立して生活できる健康寿命が短くなります。ピークボーンマスが高い方が骨粗鬆症になりにくいので、骨粗鬆症は老人の病気ではなく、予防は思春期に始まっています。

思春期は一生の健康の土台作りの時期です。そこで、国は食育基本法という法律を作って学校でバランスの良い食事の指導をしたり、毎年、健康診断をして健康体重かどうか観察したり、適切な運動が勧められたりするのです。

体脂肪と月経と食欲の良い関係

「体脂肪を5%以下に減らして筋肉質の体にしたい」という女子の希望は健康なのでしょうか?思春期には男女とも体重が増加しますが、男子に比べて女子はより体脂肪が増加します。これは、女性らしい丸みを帯びた体型にするとともに、脂肪組織から分泌されるレプチンが女性ホルモンを作って月経周期を維持することに必要だからです。

一般的に、女性では体脂肪が12.5%を切ると女性ホルモンが低下して80%が無月経になります。レプチンには食欲を抑制する働きがあります。一定の脂肪組織があることは、月経を起こして、同時に余計なむちゃ食いを抑えています。

また、食前にお腹が空いて、胃がぐーっと鳴るのは、胃からグレリンというホルモンが出ているからです。このグレリンは体重や体脂肪が減少するとたくさん出ることがわかっています。過激なダイエットをすると、結局、異常な食欲がでて、ダイエットを始めた体重より増えてしまい、リバウンドを繰り返しているダイエッターがいます。これは脳の生理的な自己防衛反応です。

日本人女性はやせ過ぎ

栄養は成長期のために成人より多く必要で、中学女子(12~14歳)の食事摂取基準は2400カロリーです。しかし、実際に摂取されているカロリーはこれを下回っており、世界的には肥満の増加が問題となっている中で、日本では逆に女性のやせの割合が増えていることが大きな問題となっています。

20歳代では5人に一人がやせ過ぎで、1日の食事摂取カロリーは第二次世界大戦直後を下回っており、月経異常や不妊症の原因になっています。この背景にはやせを礼賛するマスメディア、メタボリック症候群を対象にした健康志向に加えて、食事時間を確保できない就労環境や子供や女性の貧困問題があります。

成長期は身長が伸びる時期と体重が増える時期がずれ、成長の個人差が大きい時期です。小児期・思春期の標準体重は年齢や身長によって違うため、発育曲線や身長別標準体重の計算式(日本小児内分泌学会ホームページ) を参考にすると良いでしょう。

身長別標準体重の計算式では、14歳女子で身長が150㎝の標準体重は0.594(定数)x150㎝-43.264(定数)=45.8㎏です。-20%以下はやせ過ぎと判断されます。

ストレスを強く感じる子供はダイエットに走りやすい

首都圏の小学4~6年生では、普通体型にもかかわらず女児の約70%、男児でも45%がやせたいと思っていました(深谷和子 2002年)。やせたい理由は、もっとおしゃれができる、自分に自信が持てる、スポーツがうまくできそう、性格が明るくなれる、人からばかにされなくなる、いじめられなくなるなどで、やせが自信や自分の価値につながると認識していました。

注目すべきは、健康を害してでもやせたいと思う児童は、そうでない児童に比べて他人の評価をとても気にする傾向があり、学校や家庭で嫌なことが多いと答えていました。ストレスから逃れるために安易にやせにのめりこんでいくという傾向が認められました。挫折感の挽回やストレス回避の目的でダイエットする中から摂食障害するリスクも増えます。

ファッション業界に新しい動き

マスメディアは「やせることは健康的で自分に自信が持てる」という刷り込みをしてきました。ダイエット特集の掲載号は購読数が伸び、小さいサイズしか作らないアパレルブランドは希少価値ゆえに人気があり、ファッション誌はモデルの体型をデジタル加工して細く見せていることは周知の事実でした。

しかし、若い女性に多大な影響力を持つという使命と責任を認識したファッション業界は「健康美」を取り戻すアクションを起こしています。2012年5月、「ヴォーグ」誌の19ヶ国の編集長が連名で『ザ・ヘルス・イニシアティブ』を出し、摂食障害のように見えるほど痩せたモデルは採用しないことを決めました。

ティーン向けのアメリカのファッション誌「セブンティーン」は、写真加工による非現実的な美は思春期女性の美意識へ悪影響を及ぼすという8万人以上の署名によって、2012年に写真加工をしないことを宣言しました。

フランスでは、2015年に国民議会下院はやせ過ぎのモデルを雇用しているモデル事務所には6か月月以下の禁錮刑と7万5000ユーロ以下の罰が科される修正法案を可決しました。残念ながら、日本ではこのような動きはありません。