スポーツと月経

公開日:2016/05/19

能瀬 さやか 先生

この記事を監修したドクター

東京大学医学部附属病院女性診療科・産科 助教能瀬 さやか 先生

スポーツに参加する女性のコンディションに影響を与える婦人科の問題として、月経困難症月経痛)、月経前症候群(PMS)、ホルモンの変動によるコンディションの変化が挙げられます。これらの婦人科の問題への対策は、コンディショニングやパフォーマンス向上につながる可能性があります。また、無月経は、障害のリスクを高めたり将来的な妊孕能低下にもつながる可能性があるため、10代からの早期介入が重要となります。

月経周期と主観的コンディション

月経と試合が重なって、本来のパフォーマンスを発揮出来なかった経験はありませんか?月経痛や月経前にみられる体重増加、浮腫、腰痛、お腹の張り、気分の落ち込み、イライラ等は、スポーツに参加する女性のコンディションに影響を与えます。また、これらの症状が強くない女性でも、なんとなく月経周期の中でコンディションが良い時期を把握している選手は多くみられます。トップ選手683名を対象に行った調査では、91%のトップ選手が月経周期とコンディションは関連がある、と回答していました。また、最もコンディションが良い時期として「月経終了後から数日後」と回答する選手が多くみられましたが、選手1人1人コンディションの良い時期は異なります(図1)。目標とする試合に向けて最高のコンディショニングで臨めるよう、事前にコンディションの良い時期に試合が来るように、月経をずらすことで対策をとっているアスリートは増えています。この試合に向けた月経調節は、旅行や試験等の際に月経が当たらないようにずらす方法と一緒であり、使用する薬剤も同じです。既に月経の問題がコンディションに影響を与えている場合は、一度婦人科で相談してみましょう。

図1 月経周期とコンディションsports_graph01

月経不順、無月経

無月経の原因は様々ありますが、スポーツに参加する女性で最も多い無月経の原因は、運動量に見合った食事が摂取出来ていない「利用可能エネルギー不足」です。このエネルギー不足の状態が続くと、脳からのホルモン分泌が低下し無月経となります。つまり、月経不順や無月経は、エネルギー不足のサインである可能性があります。また、近年、国際オリンピック委員会では、男女問わず全てのアスリートにとってこのエネルギー不足は、発達、精神面、循環器、免疫、代謝、骨等全身に悪影響を与え、パフォーマンス低下につながるとし「運動量に見合った摂取エネルギー」の重要性について警鐘を鳴らしています。下記に当てはまる場合は、エネルギー不足による月経不順や無月経が疑われるため、食事から摂る摂取エネルギーを増やすよう心がけましょう。
《エネルギー不足による無月経を疑うケース》
①急激に体重が減った時期がある
②練習量が増えた時期がある
③慢性的に低体重(成人:BMI 17.5以下、思春期:標準体重85%以下)である
では、無月経になるとどのような問題が起きるのでしょうか。無月経に伴う低エストロゲン状態が続くと、若い女性においても骨量低下につながります。アメリカスポーツ医学会では、利用可能エネルギー不足、無月経、骨粗鬆症を「女性アスリートの三主徴」と定義しています(図2)。また、これらのエネルギー不足や低骨量/骨粗鬆症は、スポーツに参加する女性にとって疲労骨折のリスク因子の1つとなることが報告されています。この低骨量の予防は、10代でのエネルギー不足や低体重を防ぐこと、これによって無月経に伴う低エストロゲン状態を回避することにより、10代でしっかり骨量を獲得することが重要となります。無月経期間が長い程、骨量等への影響も大きくなるため、下記に当てはまる場合は、婦人科を受診するようにしましょう。
《婦人科を受診が勧められるケース》
①3か月以上、月経が止まっている
②15歳になっても初経が来ていない

図2 女性アスリートの三主徴
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アンチ・ドーピング

競技会に参加する場合、ドーピング検査対象者になる可能性があります。このため、これらの選手においては、身体に摂り入れるもの全てに対し、ドーピング禁止薬物を含んでいないかの確認が必要となります。ドーピング禁止物質は、世界アンチ・ドーピング規程禁止表国際基準(以下、禁止表)によって決められており、少なくとも年1回以上(1月1日)に改訂されるため、最新の禁止表を確認する必要があります。使用したい薬剤がドーピング禁止薬物を含んでいるかについては、Global DRO JAPAN(http://www.globaldrojpn.com/)で検索可能です。また、不明な点については、アンチ・ドーピングについての最新知識を持った薬剤師であるスポーツファーマシストに確認することが出来ます。また、婦人科で使用される機会が多い低用量ピルは、ドーピング禁止物質ではありません。

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