月経前症候群(PMS)
公開日:2016/03/28

この記事を監修したドクター
東京都立駒込病院 緩和ケア科、東京大学医学部附属病院 届出研究員鶴賀 哲史 先生
体の症状と心の症状が出ます
PMS(Pre Menstrual Syndrome)の歴史は、1931年にアメリカのロバートT・フランクが月経前期の症状が多くの女性にあることに注目したことに始まり、1953年にイギリスのダルトンとグリーンがこの疾患名を医学誌に発表し、以降、特に西欧諸国では定着しています。
日本でも最近「月経前症候群ではないかと思って来ました」と婦人科を受診する女性も増えています。
PMSの症状は、腹部緊満感・肩こり・頭痛・むくみ・体重増加・便秘・乳房緊満感といった身体的症状と、イライラ感・怒りやすい・無気力・集中力低下といった精神的症状です。
イライラが高じると、夫や子ども、あるいはパートナーに当たってしまい、「自分は子どもを虐待する母親だ」「なんてダメな人間だろう」「パートナーとして失格」などと家族や仕事場での人間関係に悩みます。
原因は明確ではありません
こういった変化は、ある程度誰にでもありますが、PMSとは症状が排卵以降月経まで長く強く続くことで、20歳前半から閉経までの2~10%の女性に起こるとされています。
歴史や文化の違いを超えて、程度の差はあるにしても、普遍的にこの疾患群の存在は認められます。
原因は、神経伝達物質のセロトニン、プロスタグランジン、食事、ライフスタイルなどにその原因を求める説などがありますが、いまだ明確ではありません。
どうやって診断するの?
アメリカ精神医学会の定義(DSM-Ⅲ-R)によると、月経前1週間に以下の症状のうち4個(①-④の一つは必須項目)が存在し、月経とともに消失するという周期性があること、これらの症状が日常生活に支障をきたす場合に診断され、除外項目として大うつ病を挙げています。
①気分の不安定
②イライラや怒りやすい
③不安感・緊張感
④うつ状態・自己評価の低下
⑤仕事・趣味などへの興味消失
⑥倦怠感・エネルギー低下
⑦集中力低下
⑧食行動変化(甘いものを食べたくなるなど)
⑨睡眠障害
⑩その他の身体症状(乳房緊満感・体重増加・むくみ・頭痛・肩こりなど)
甲状腺や糖尿病・肝機能異常・貧血・うつ病などがないことを確認して、PMSチェックシート(簡単な症状日誌)に記録してもらいます。
排卵があること、また2か月にわたって、症状の周期性があることを確認できたら、PMSと診断がつきます。意外と純粋なPMSは少ない印象です。
治療法はさまざま…
原因がわかっていないがゆえに、治療法は確立されていません。
プラセボ(偽薬)の効果があるという報告もあり、ホルモン剤-黄体ホルモン・ピルなど、利尿剤、抗うつ剤(SSRI)、栄養療法-ビタミンB6・ビタミンE・カルシウム・マグネシウムなどのサプリメント・カフェインや糖分・塩分・アルコールの制限、適度な運動・認知行動療法など300種類以上の治療が試みられていますが、残念ながら明確な治療法は確立されていません。
治療はその症状に応じて、対処治療を試みることになります。
症状を書き留めることで
症状日誌(「PMSメモリー」として家族計画協会で購入できます)が効果的です。
「月経前後の数日だけ調子が悪いことに気づき、この時期だけをやり過ごせばいいんだということがわかりました」という反応もよく聞かれます。
逆に「月経前だけと思っていたけれど月経サイクルに関係なくずっと調子が悪い」ということに気づかされることもあります。こういうときには心療内科と連携しながらケアすることが必要となります。
漢方薬もPMSに向いています
漢方薬はPMS治療に向いています。
むくみに対しては「五苓散」、しつこい便秘や腹部の張った感じには「桃核承気湯」、その他、「加味逍遥散」などを月経前の10~14日間、内服します。
プラセボ効果や症状日誌が効果的であることを考えると、つらい症状を訴えることができ、それを受容してくれる(否定されない)治療的な医療者との関係を作ることで、女性自身が前向きに対処できるよう支援することが、治療の根幹だと思います。
もっと知りたい! ドクター監修の記事を続けて読む