思春期の自傷をどう支えるか
公開日:2025/08/22

この記事を執筆したドクター
国立成育医療研究センター 女性総合診療センター 女性精神科 診療部長久保田 智香 先生
自傷は、苦しい状況に置かれたときに、何とか気持ちを保って生き延びようとする対処行動の一つです。リストカットや大量服薬のほか、過食や拒食、アルコールの乱用など、さまざまな形で現れます。
日本では、中高生で自傷を経験したことがある人は約10人に1人、「死にたい」と考えたことがある人は成人の約4人に1人と報告されています。
自傷は特別な誰かの問題ではなく、私たち皆に関係する大切な課題です。ここでは、自傷をどのように理解し、どう関わっていけばよいかを解説します。
自傷とは
自傷とは、自分自身を意図的に傷つける行動を指します。リストカットや壁に頭を打ちつけるといった直接的な行動から、大量服薬、アルコールの乱用、過食や拒食、危険な性行動などの自己破壊的な行動も広くは含みます。最近増えている市販薬の大量服薬(オーバードーズ)は、依存を引き起こすため深刻な問題となっています。さまざまな自傷を並行して行う人も少なくありません。
自傷は「死にたい」という気持ちによるものだけでなく、「死ぬつもりはないけれど、つらさに耐えられない」という気持ちから起こす「非自殺性自傷」があります。それぞれ理由や背景が異なりますが、非自殺性自傷ものちの自殺リスクが高まるため、注意が必要です。
日本では、中高生の約10人に1人が何らかの自傷を行ったことがあり、成人の4人に1人が「死にたい」と思ったことがあると報告されています。
自傷にいたる背景
自傷をする背景は多様です。家庭や学校の問題、人間関係の悩み、貧困、孤立、発達特性、性の悩みなどが複雑に絡み合い、一人一人異なります。本人ですら理由をうまく言語化できないことも少なくありません。
つらい感情や不快な体験を抱えきれなくなったとき、それを一時的に打ち消す手段として自傷が選ばれることがあります。自傷は「死にたい」よりも「何とか生き延びたい」という思いの表れとも言えます。
どのように支援するか
自傷をできるだけ早く解決したいかもしれませんが、粘り強さ、持ちこたえる力が必要です。もし、最初は熱心であった支援者が、思うような改善が見られないことに息切れして疲れや無力感が募り、否定的な気持ちが強くなれば、かえって状況は悪化します。
自傷する人もまた、周囲に対して「期待に応えたい」「迷惑をかけたくない」と思いながら努力していることが少なくありません。しかし、自傷の背景には、すぐに根本的な解決が難しい問題があることも多く、苦しさが募って感情のコントロールが難しくなることがあります。その結果、自傷を繰り返すと「やっぱり自分はだめだった」という自己否定が生まれます。
支える側の無力感と、自傷する側の無価値感は表裏一体です。重要なのは、自傷の背景にある相手や自分のこころの動きに目を向け、話したくなったときに安心して話せる居場所となって伴走することです。
支援のポイント
・自傷を打ち明けてくれた気持ちを否定しないこと
話してくれたこと自体が大きな勇気の表れです。評価やアドバイスではなく、まず受け止めることが何よりの支援になります。
・「目に見える変化」だけで本人を判断しないこと
一時的に自傷が減ったとしても、内面の苦しさが消えたとは限りません。
逆に、再び自傷が起きたとしても、そのことを信頼できる相手と話し合えるようになったとすれば、状況は良くなったと言えます。
・自傷の改善と支援者自身の価値を結びつけないこと
「自傷を止められたかどうか」が支援者の価値ではありません。すぐに変化が見えなくても、安心できる関係を続けること自体が支援です。支援者も孤立せず、仲間とつながることが大切です。
・自傷が起きたときだけ関わるのではなく、日常的に見守り続けること
ふだんから変わらない態度で接し、一時的に崩れたとしても戻りやすい関係を築いておくことが、長期的には回復に結びつきます。
・支援者自身のケアも忘れないこと
相手の苦しみに共感して自分もつらくなる「共感性疲労」を感じたり、思うような結果にならず罪悪感や挫折感を抱いたりするかもしれません。自分自身が気持ちを整理する時間を持ったり、信頼できる人に話したりすることも大切です。
精神科的問題との関連
自傷行為があるからといって、必ずしも精神疾患があるとは限りません。しかし、強いストレスや生きづらさに精神疾患や発達特性が関わっていることは少なくありません。
自傷と関連する精神科診断
・ADHD(注意欠如・多動症):衝動性の高さ
・ASD(自閉スペクトラム症):対人関係の困難さからくる孤立感
・うつ病:無価値感、無気力
・PTSD(心的外傷後ストレス障害):過去のトラウマを思い出す恐怖
・境界性パーソナリティ障害:感情の激しさ、対人関係の不安定さ
専門家の診断が必要と感じたら、早めに精神科につなげることが望まれます。しかし、こうした診断がある場合でも、それが本人の全てを決めるわけではありません。診断名よりも、本人がどのような困難を感じているかに焦点を当てて関わることが大切です。
おわりに
自傷への支援は、その奥にある気持ちや背景に目を向けることから始まります。誰かとつながっていること、理解されていると感じることが、回復への大きな力になります。
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