自傷行為に悩んでいる方へ

公開日:2016/03/29

最終更新日:2025/08/22

久保田 智香 先生

この記事を執筆したドクター

国立成育医療研究センター 女性総合診療センター 女性精神科 診療部長久保田 智香 先生

つらい気持ちを抱えているとき、自分でも理由がわからないまま、自分を傷つけてしまうことがあります。さらに、周りの人は「やめさせること」にばかり意識が向き、本当の自分を見てもらえていないと感じることもあるかもしれません。この文章は、自分を少しずつ理解していくこと、信頼できる人とつながることについて書かれています。読むことで、あなたが自分を大切にする時間をほんの少し増やせたらと思っています。

自傷とは

自傷とは、自分自身を意図的に傷つける行為です。日本では、中高生の約10人に1人が自傷を経験し、成人の約4人に1人が「死にたい」と感じたことがあると報告されています。
リストカットや大量服薬、壁に頭を打ちつけるなどの行動から、過食や拒食、薬やお酒の乱用、危険な性行動まで「自分を大切にしない行動」は広い意味で自傷に含まれます。
多くの場合は「何とかこのつらさを乗りこえたい」という思いから始まります。しかし、自傷を行う理由や状況は一人一人異なり、同じような経験のある人同士でも理解し合えないこともあります。家庭や学校での問題、対人関係、発達特性、性の悩みなど、複数の要因が絡み合って、自分でも理由が分からないまま自傷する人も少なくありません。

自分を理解することからはじめる

自傷をすれば、周りから止められたり、「手に負えない」とみなされよく知らない専門家などへの相談を促されたりするかもしれません。自傷をなくすことばかりに注目され、自分自身をみてもらえていないと感じることもあるかもしれません。違和感を持ち続けたままの状態で無理をすると、かえって苦しさが増します。
大切なのは、なぜ自傷するのかを自分なりに理解していくことです。自傷が一時的に楽に感じられるのは、感情を鈍らせたり、別の痛みに置き換える作用が働くからです。しかし、繰り返すことで心身の負担が高まり自分を否定する気持ちも強まります。いつどのようなときに自傷するのか、何を苦しいと思っているか、考えてみることが回復の入り口になります。
ただし、自分ひとりで気づけることには限りがあります。ときには、信頼できる相手とのやり取りが、自分では見えていなかった感情や考えを整理するきっかけになることもあります。

信頼できる相手を探す

小児期に多くの逆境を経験した人は、自傷を行いやすいことが知られています。その経験から「大人は信用できない」と感じる人も少なくありません。けれども、大変な状況を生き延びてきたからこそ、理解者の存在は一層大切になります。そうした人がいれば、これまでに考えてきたことを話し合い、困っていることへの対策を立てるきっかけになるでしょう。

① 相手を選ぶ
あなたの言葉を最後まで聞き、急に態度を変えたり関係を断ったりしない人が望ましいです。あなたの気持ちに寄り添い、共感しようとしてくれる人を選びましょう。話したことを勝手に広めたり、すぐにアドバイスを押し付けたりせず、まず理解しようとする姿勢がある人であれば、安心して気持ちを伝えやすいです。

② タイミングを選ぶ
どんなに信頼できる相手でも、話すタイミングが悪ければ、十分に聞いてもらえないことがあります。自傷した直後など切迫したときは、支えてほしい気持ちが強まりますが、自分にも余裕がなく敏感になっているため、うまく話せなかったり、相手の言動に深く失望したりすることがあります。できれば時や場所を改め、自分も相手も落ち着いているときに話すほうが、気持ちが整理されやすく、解決にもつながりやすくなります。

③ 話す内容を決めておく
深く踏み込んだ内容を、すべて一度に話す必要はありません。話しすぎてかえって傷つくこともありますし、すべてを話しても相手がすぐに受け止めきれるとは限りません。まずは困っているポイントを簡潔に伝え、反応や態度を見ながら、少しずつ深い内容に進む方法もあります。また、どのくらいの時間や気持ちの余裕があるか、事前に相手に確認しておくのも良いかもしれません。
精神科医や心理士などの専門家に相談する場合にも、やはり相性やタイミングの影響はあります。しっかり受け止めてもらえれば信頼感が生まれます。話したくなったときに安心して話せる場所ができることは、回復への大きな力になります。
もちろん、相手の受け止め方を完全にコントロールすることはできません。しかし、もしうまくいかなかったとしても、より良い方向に進めるために作戦を立て、実際に相談しようと行動できたこと自体が大きな意味を持ちます。

SNSについて

信頼できる相手は直接会える人だけとは限りません。X(Twitter)やInstagramのようなオープンアクセス型SNSは、身近にはいない同じ経験を持つ人と出会えたり、孤立感がやわらぐきっかけになることがあります。
しかし、投稿で全く知らない人から否定的な言葉を受けたり、受け止めてもらえなかったりして、かえって傷つくリスクもあります。自傷について投稿する人もいますが、嫌な思いをしたり、思いもよらないトラブルに巻き込まれたりすることもあるため、自分を守るために距離を置くことも大切です。
また、SNSでの反応や承認に強くこだわる状態が続くと、気持ちが不安定になったり落ち込みやすくなったりします。うまく活用しながら、自分の心や時間を守るバランスも大切にしてみてください。

こころの病気や発達特性との関連

自傷をしているからといって精神疾患とは限りませんが、以下のようなものが関係することがあります。

・ADHD(衝動性の強さなど)
・ASD(コミュニケーションの苦手さ、こだわりなど)
・うつ病(気分の落ち込み、罪悪感、死にたくなる気持ち)
・PTSD(過去のつらい体験のフラッシュバック)
・パーソナリティ障害(感情の起伏や大人関係の不安定さ)

家族も同じような状態である場合もあり、気になる場合は相談してみるのも手です。精神科はハードルが高いという場合は、スクールカウンセラーや精神保健福祉センターなどの相談先も活用できます。いろいろな方向から今ある状況を検討してみることが大切です。

おわりに

どんなに小さなことでも「わかってもらえた」という経験の積み重ねが、これからを支える土台になります。時間がかかるかもしれませんが、自分を傷つけずに過ごせる時間が少しずつ増えていくことを願っています。

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