摂食障害(拒食、過食)

公開日:2016/03/29

最終更新日:2025/12/10

久保田 智香 先生

この記事を執筆したドクター

国立成育医療研究センター 女性総合診療センター 女性精神科 診療部長久保田 智香 先生

摂食障害とは、食に関する行動の異常と、体型への強いとらわれにより、身体と心にさまざまな不調を引き起こす疾患です。重症化すると、極端な低体重によって命に関わることもあります。
患者さんは女性に多く、女性では約8.4%、男性では約2.2%に認められると報告されています。特に10代から20代の女性に多いことが知られています。発症の原因は一つではなく、遺伝的要因や環境的要因など複数の因子が関与しますが、多くの場合において「ダイエットの開始」がきっかけとなり、自己肯定感の低下が背景にみられます。
そのため、若い女性の痩せを過度に称賛する風潮が変化していくことが、社会全体として求められます。海外では痩せすぎたファッションモデルを起用することを規制する動きも広がり始めています。

摂食障害とは

摂食障害とは、体型や体重への不安やこだわりが強くなり、食事を極端に制限したり、反対に過食してしまったりと、健康的な食べ方ができなくなることで、心と体に深刻な影響を及ぼす疾患です。摂食障害は女性の方が多く、すべての摂食障害で女性約8.4% 、男性約2.2% と報告されています。

摂食障害の種類

① 神経性やせ症
神経性やせ症は、太ることに対する抗えないほどの強い恐怖から、極端に体重が減り、健康や生活に大きな影響が出る疾患です。時に自覚のないまま命の危険が現れるほどに体重減少が進行します。死亡リスクは同年齢の人の約5-6倍とも言われ、精神疾患の中で最も高い死亡率であると指摘されています。
「摂食制限型」と「過食排出型」の2つのタイプがあり、摂食制限型では、主に食事を大幅に制限したり過度に運動したりして体重を減らします。一方、過食排出型では、飢餓からの過食に続いて嘔吐や下剤の乱用などの排出行動を繰り返します。摂食制限型から過食排出型へと移行することもあります。
極端な体重減少が続くと、体力が落ちて疲れやすくなり、月経が止まる、皮膚や髪が乾燥する、髪が抜ける一方で産毛が濃くなる、貧血や脱水、骨粗しょう症など、さまざまな身体症状が現れます。さらに、嘔吐がある場合には、胃酸によるエナメル質損傷やう歯、手にできる吐きだこ、下剤乱用がある場合には、電解質異常、便秘や腸管拡張など、より深刻な状態につながります。

② 神経性過食症
止めたいのに止められない過食が繰り返され、その後に嘔吐や下剤、過度の運動などによって体重増加を防ごうとしてしまう病気です。太ることへの強い恐怖感が背景にあり、過食を繰り返すことで自己肯定感が低下していきます。
嘔吐や下剤乱用は、電解質異常や歯の損傷、不整脈などの深刻な身体症状につながることがあります。体重は正常からやや過体重の場合も多いため周囲にも気づかれにくく、本人も自分を責めて治療につながりにくいことが大きな課題です。

③ 過食性障害
短時間に、自分でもコントロールできないほどの量の食べ物を繰り返し食べてしまい、その後に強い羞恥心や罪悪感、落ち込みが生じる病気です。体重は正常のこともありますが、肥満につながることもあります。
嘔吐や下剤乱用などの排出行動は伴いませんが、感情の不安定さと関連が深く、ストレスや不安から過食が起き、その後の自己嫌悪によって再び過食へ向かうという悪循環に陥りやすい特徴があります。周囲に隠れて苦しみが続くことも多く、生活や対人関係への影響は大きいといえます。

④その他の摂食障害
回避・制限性食物摂取症は、食べ物への強い苦手意識や恐怖などから十分に食べられなくなり、体重や栄養状態、日常生活に支障が出る疾患です。神経性やせ症のように「痩せたい」という気持ちが動機ではない点が特徴です。
異食症は、紙や土など本来食べ物ではないものを1か月以上繰り返し食べてしまい、その行動が発達段階や文化的習慣では説明できない疾患です。
反芻症は、食べた物を無意識に繰り返し吐き戻し、再度噛んだり飲み込んだりする行動が続き、他の疾患に起因しない場合に診断されます。

また、摂食障害に特徴的な症状によって日常生活に支障が出ているにもかかわらず、いずれの診断基準も完全には満たさない場合は、特定不能の摂食障害と診断されます。

どのような治療法があるのか

摂食障害の治療では、認知行動療法(CBT-E)や家族療法(FBT)が柱となり、疾患のタイプや年齢に応じて治療方針が異なります。抗うつ薬などの薬物療法は、神経性過食症や過食性障害には一定の効果が認められますが、神経性やせ症では限定的です。全体として治療効果は中等度であり、長期的な維持や再発予防のためには、多面的なアプローチと継続的な支援が求められます。

認知行動療法では、「体型や体重が自分の価値を決める」という極端な思い込みを一緒に振り返り、友人関係や学校・仕事、趣味など、体型以外の大切な側面にも目を向けられるようにしていきます。小さな成功体験を積み重ねながら、「自分には体型以外にも価値がある」「太っても人間関係は変わらない」と実感できるよう支援し、よりバランスの取れた考え方へと修正していきます。

家族療法では、まず命を守るために体重回復を最優先とし、家族が責任を持って管理を行います。体重が回復してきたら、徐々に食事管理を本人に戻し、最終的には年齢相応の生活に戻り再発を防ぐことを目指します。実際には、体重を増やすための管理は、本人にとって強い恐怖を伴います。そのため、食べ物を隠す・激しい運動をする・逃げ出すなど、病気による強い抵抗が生じることがあります。治療は大変な過程となりますが、治療者はご家族が疲弊しないよう寄り添いながら、病気に立ち向かう支援を続けます。

「痩せていなければ」が子どもを苦しめる社会を見直す

ダイエットは、摂食障害のリスク因子の一つです。多くの場合、摂食障害の発症前にはダイエットが先行し、過度なダイエットは体調不良やリバウンドを招き、かえって自己肯定感を下げることが知られています。

しかし日本では、「若い女性が痩せていること」が美しいとされる価値観が根強く存在しています。1999年の調査では、10歳の小学生女子の48%が自分を「太っている」と感じており、その割合は年齢とともに増加し、17歳では84%に達していました。また、標準体重であるにもかかわらず、多くの女子がダイエット経験を持つことも報告されています。

近年では、スマホやSNSの普及により、細く見える体型が称賛される画像を日常的に目にするようになりました。とくに外見に関する投稿をよく閲覧・投稿するほど、「痩せ=美」の価値観を受け入れやすくなり、その結果、体型への不満や自分の体型を常にチェックしてしまう傾向が強まることが報告されています。

日本の女子中高生を対象とした研究では、約78%が「痩せたい」と回答し、その中にはすでに瘦せ体型であるにもかかわらず、さらに痩せようと考える生徒も存在しました。こうした誤った体型認識は、無理なダイエット行動につながり、摂食障害のリスクを高める可能性があります。

実際の健康指標にもその影響が表れています。令和5年国民健康・栄養調査では、BMI18.5未満の「やせ」に分類される女性は 全体で12.2%、中でも 20〜30歳代では20.2%と高い割合でした。また、日本では低出生体重児が約10%と先進国の中でも高い水準にあり、その背景の一つとして、若い女性の痩せや妊娠中の体重増加不足が指摘されています。

海外のファッション業界では、極端な「痩せ」を促す風潮に歯止めをかけるため、フランス・イスラエル・イタリアなどで BMI基準や医師の証明書、写真修正の明記義務が導入されています。社会の価値観を「健康な美しさ」へと転換し、若い世代の心身を守る取り組みが進められているのです。

日本でも、子どもたちが小学生のうちから「痩せなければ美しくない」と思い込んでしまうような社会ではなく、健康な体を正しく評価できる環境づくりが求められています。

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