女性医療の現状と課題

公開日:2016/03/30

対馬 ルリ子 先生

この記事を監修したドクター

医療法人社団ウィミンズ・ウェルネス 女性ライフクリニック銀座・新宿 理事長対馬 ルリ子 先生

これまでの女性医療は臓器別で均一化された診療でした

これまで述べたように、女性は月経周期や、思春期、成熟期、更年期、老年期と、そのホルモン変動によって大きく心身の状態が揺さぶられるほか、結婚や育児などのライフイベントによっても、生活や環境が大きく変化します。
それに伴う健康問題は、月経不順月経痛月経前症候群(PMS)頭痛、不安、動悸やめまい不眠うつイライラ冷え乳房痛下腹痛摂食障害など、明らかにQOL(生活の質)の低下をともなう、心身の失調を起こしやすい特徴があります。

しかし、このような女性の心身の特徴、月経や閉経などのホルモンの変動、生活環境や、仕事やライフスタイルなど、個人としてのあり方を考慮せずに、臓器別に均一の診療をしてきたのがこれまでの女性医療でした。

女性医療や女性のヘルスケアに関するこれからの方向性とは?

1)ビキニ医療から一生涯の総合医療・ヘルスケアへ

従来の婦人科や乳腺だけの従来の女性医療は、ビキニ医療といいます。ビキニの水着でかくす部分のみ女性と考える医療のことです。
しかし、現代女性の健康問題は、心身や生活全般から、また長い人生全体から考えていく必要があります。妊娠、出産はもちろん、性差のある内科的な問題(特に甲状腺疾患関節リウマチ膠原病など自己免疫疾患)、性自認や性行動に関わるもの、心の問題、整形外科的疾患など、ライフスタイルとライフステージに沿った一生涯の問題として健康をとらえなおし、支援してゆく必要があります。

2)医師―患者の上下関係から、患者主体のチーム医療へ

これまで医療者と患者には上下の意識がありました。しかし、これからは、患者を主体とした医療が求められています。医師も、コメディカルも、それぞれが専門性を保ちながら、ひとつの目的――ひとりひとりの人間の、生き方を含めた生涯健康――のために垣根を超えて力を合わせていくことが求められています。

3)短時間診療からゆっくり相談へ

これまでの保険診療は、公費で多く人々の「病気の診断と治療」をすることを目的としていました。必然的に、医師は短時間にたくさんの患者を診て、病気かそうでないか、重病かそうでないかを鑑別することに集中します。それは、本当に医療が必要な人に、早く医療を届けるために不可欠な大事なやり方であり制度でした。
しかし、最近では、ゆっくり話を聞いてもらい、不安や疑問を払拭し、治療や方針について十分医師と相談し、しっかりと未来への展望を得たいと考える人々が増えてきました。 
そのため、予約制で診療や相談の時間を十分取ったセカンドオピニオンや、かかりつけ医からの紹介制度など、新しい診療のかたちが求められています。医師でなくとも、身近に相談にのってくれる医療や保健の相談窓口があればと考える人々がいます。

4)臓器別均一診療から、全人的医療へ

これまで、臓器別に男女均一に行われていた医療は、特に心身やホルモンの失調が連動して起こりやすい女性にとって不満の大きなものとなっていました。症状があっても重病ではないと追い返されてしまう実態があったのです。
今後は、症状に対して臓器別に検査・治療・投薬がなされるのでなく、その背景にある性ホルモンの動きや、生活(食事、睡眠や休養、運動、仕事や家庭環境など)、体質、ストレスやリスクに対して、統合的な視点をもった医療が求められています。

5)性差を考慮した医療へ

女性はその発達や機能も、疾患の発現頻度や種類も、薬剤代謝や効果も、取り巻く社会的文化的状況も、男性とは異なった面があります。医師や医療者には、男性と同様の機能や疾患ばかりでなく、生物学的性差(Sex)や社会的文化的性差(Gender)について理解し診療することが期待されます。

6)代替補完医療やボランティアとの連携

症状を緩和し、精神の安定をもたらす代替補完医療が各先進国の医療にも取り入れられています。漢方や鍼灸、栄養運動療法、アロマセラピー、整体、気功、サプリメントなど、代替補完医療が我が国でも増えています。
しかし、それらと従来の西洋医療との連携はまだまだであり、また、エビデンスに基づいた医療としての理解も相互に得られていない現状があります。また、患者の自助(Self-help)グループ、健康啓発団体も、従来医療と連携し活動しています。

一人ひとりを大切にした新しい医療・保健システムの構築へ

女性の医療や保健制度は、ヘルスケア習慣を主体とした、予防やライフスタイル中心の制度に発展させる必要性があります。教育や情報提供、相談、検診、メンタルヘルス、緩和ケア、女性のエンパワーメント(生きる力を養い暴力や不合理に負けないための支援をすること)をする医療・保健・支援センターが地域に配置されることが必要です。
ひとりひとりの健康=well-beingを目的とし、既存の医療や福祉と連携し、地域の人たちと協力しあうことによって、その地域やニーズに合った、新しい医療・保健システムが構築できることを期待します。

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