不育症

公開日:2017/03/30

最終更新日:2021/10/25

藤井 知行 先生

この記事を監修したドクター

医療法人財団順和会山王病院院長/国際医療福祉大学大学院・医学部産婦人科学教授藤井 知行 先生

不育症って、何ですか?

妊娠するけれども、2回以上の流死産の既往がある場合を不育症(recurrent pregnancy loss)といいます。現在のところ、妊娠反応のみ陽性で赤ちゃんの袋(胎嚢)が子宮内に確認されないまま、その後に月経になってしまう生化学妊娠については流産回数には含めません。すでに赤ちゃんがいる場合でも、2回以上の流死産の既往があれば(流死産が連続していない場合を含める)、不育症に含めます。

また、流死産歴が2回未満でも次回妊娠で流死産のリスクが高く、原因検索の動機付けとなる状態も不育症として診療対象になります。

不育症は、どれくらいの頻度で起こりますか?

妊娠しても、10~15%が、残念ながら流産となります。不育症の頻度については、厚生労働省の班研究によると、2回以上の流産既往が4.2%(40人に1人)で、3回流産の流産既往は0.88%です。こうしたことから計算すると、不育症は1年に3万人日本で発生していると推定されます。

流産の原因は何ですか?

妊娠初期の流産のほとんどは染色体異常などの受精卵の異常によっておこります。しかし、これは御夫婦のいずれかに染色体異常があるという意味ではなく、卵子や精子の形成過程や受精成立以降に偶発的に生じるものがほとんどであり、このタイプの流産はいわば自然淘汰の過程でおこる現象です。母体年齢により流産率が上昇するのも、卵子の染色体異常に起因すると考えられます。

不育症のリスクには何があるのでしょうか?

不育症の原因になりうる異常をリスクといいます。厚生労働省研究班によると、不育症のリスクと頻度は図1に示す通りです。しかし、検査でリスクが見つかる患者さんは約35%程度です。不育症患者さんの約65%ははっきりとしたリスクがみつからない、いわゆるリスク不明不育症患者さんです。


不育症の検査には、どのようなものがあるのでしょうか?

不育症のリスクを持っているか調べる検査が不育症の検査です。検査には、エビデンスが十分にある推奨検査、エビデンスが必ずしも十分とはいえないが推奨検査に準ずる選択的検査、不育症との関連が示唆されているがエビデンスがさらに不十分で研究段階の研究的検査があります。

1.推奨検査
 1)子宮形態検査:子宮の形態に異常があるか調べます。
    3D超音波検査、ソノヒステログラフィー(2D超音波検査)、子宮卵管造影検査(HSG)
 2)抗リン脂質抗体検査:血栓や流産、死産を引き起こす抗リン脂質抗体のうち、抗リン脂質抗体症候群の基準に含まれる抗体の有無を調べます。
    β2GPI依存性抗カルジオリピン抗体、抗カルジオリピンIgG抗体、抗カルジオリピンIgM抗体、
    ループスアンチコアグラント(LA)(aPTT法、希釈ラッセル蛇毒時間(dRVVT)法、リン脂質中和法で調べます)
 3)夫婦染色体検査:夫婦のいずれかが転座などの染色体異常を持っているか調べます。
    染色体G分染法
 4)内分泌検査:流産や妊娠異常と関連がある甲状腺機能異常の有無を調べます。
    TSH、fT4
 5)流死産胎児絨毛染色体検査:流産の原因の相当数を占める受精卵の染色体異常があったか調べます。
    染色体G分染法

2.選択的検査
 1)子宮形態検査:推奨検査の子宮形態検査で異常が指摘された時に、行います。
    MRI、子宮鏡検査
 2)血栓性素因関連検査:AMED研究班のデータから不育症との関連が示唆された血栓素因の検査です。
    プロテインS、第XII因子凝固活性、プロテインC、アンチトロンビン
 3)抗リン脂質抗体検査:抗リン脂質抗体症候群の基準に含まれないが、不育症と関連が指摘されている抗体です。
    抗フォスファチジルエタノールアミン(PE)抗体IgG
    抗フォスファチジルエタノールアミン(PE)抗体IgM
    フォスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン(PS/PT)抗体
 4)自己抗体検査
    抗TPO抗体(甲状腺異常と関連があります)
    抗核抗体(全身性エリテマトーデスなどの合併を疑う場合に調べます)

3.研究的検査
 1)抗リン脂質抗体
    ネオ・セルフ抗体(抗β2GPI/HLA-DR抗体)
 2)免疫学的検査
    末梢血:NK活性、NK細胞率、制御性T細胞率
    子宮内膜:CD56brightNK細胞率、KIR陽性率、制御性T細胞

不育症の治療は、どのようなものですか?

リスクに対して治療を行います。

1.子宮形態異常
手術(子宮奇形では中隔子宮のみが手術適応となります)をします。

2.抗リン脂質抗体症候群(基準を満たすもの)
 β2GPI依存性抗カルジオリピン抗体、抗カルジオリピンIgG抗体、抗カルジオリピンIgM抗体、ループスアンチコアグラント(LA)が12週間以上の間隔を空けて2回陽性の場合は、低用量アスピリン内服+へパリン自己注射をします。

3.その他血栓性素因陽性、又は基準を満たさない抗リン脂質抗体陽性
 低用量アスピリン内服をします。

4.夫婦の染色体異常
 無治療でも、次回妊娠で2/3の方が、赤ちゃんを得られます。しかし、ご希望があれば、遺伝カウンセリングを受けて頂いた上で、施設によっては、着床前診断を受けることも可能です。

5.甲状腺機能異常
 甲状腺機能亢進症、顕性甲状腺機能低下症は、甲状腺専門医のもとで適切な治療・管理を行ないます。

6.リスク因子が特定できない場合
 リスクが特定できない場合は既往の流産が胎児染色体異常の繰り返しである可能性があります。精神的に苦しい場合は、精神支援により、投薬治療なしでも妊娠継続できる可能性が高いことが報告されています。

不育症の予後は、どうなのでしょうか?

不育症の方の85%が最終的に元気な赤ちゃんに恵まれています。また、流産回数が増えると生産率が低下する傾向がありますが、4回までであれば60%以上の生産率があります。また、治療を開始しても流産された場合、次の治療法の選択のため、流産検体の染色体検査を行うことは極めて重要です。