妊婦健診は受けないといけないの?

公開日:2016/09/30

最終更新日:2021/10/15

菊池 昭彦 先生

この記事を監修したドクター

埼玉医科大学総合医療センター産婦人科教授菊池 昭彦 先生

みなさんは、“自分は健康なのに、病院に行く必要があるの?”と思ってはいませんか。
妊婦健診とは、一般的には妊婦健康診査といいます。もしかしたら妊娠・出産に影響のある病気をもっているかもしれません。風疹や麻疹など感染症について抗体はもっているの?健康なお母さんであっても妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病など妊娠時特有の病気にかかることがあります。落ち着いていると思っている病気が妊娠によって悪くなることもあります。もちろん赤ちゃんの成長や病気の発見、元気よさも確認します。お母さん自身に症状がなくても、母児の健康を定期的に確認するのが妊婦健康診査なのです。
妊婦健診で行う検査は、妊娠に伴って起きる病気を早期発見するための検査が含まれています。何らかの病気を疑って行われる他科の検査とは性質が異なります。検査を行う時期についても、その時期に行う理由があります。検査結果の確認と同時に対応を開始しなくてはいけない病気や、お産の方法を検討しなくてはいけない病気もあります。妊婦健診は定期的に受けましょう。

妊婦健診で行う検査

妊婦健診で行う検査は、毎回の健診ごとに行われる検査と、検査を行う時期に意味があり、妊娠中の決まった時期に行われる検査があります。

毎回の妊婦健診ごとに行われる検査

毎回、行われる検査項目として体重および血圧の測定と尿検査があります。これらは妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病の早期発見のために必要な検査です。また、子宮底長や腹囲も母子手帳に記載欄がありますが、超音波検査を行う場合には省略されることがあります。

1. 体重

妊娠中のお母さんの体重の適切な増加量は,BMI(妊娠前の体重÷身長2)を目安にします。
BMI <18.5 (低体重):12‐15kg
BMI 18.5 ≦ ~ <25(普通体重):10-13kg
BMI 25 ≦ ~ <30 (肥満1度):7-10kg
BMI 30 ≦(肥満2度以上):個別対応(上限5㎏までが目安)
「日本産科婦人科学会 令和3年6月1日」

やせ女性は、切迫早産、早産、低出生体重児分娩のリスクが高い傾向があり、肥満女性は妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、帝王切開分娩、死産、巨大児、児の神経管閉鎖障害などのリスクが高い傾向があります。妊娠中の体重増加量が多いほど、児の出生体重が重くなる傾向があり、定期的な体重の管理が大切です。

2. 血圧

妊娠20週以降に、収縮期血圧が140mmHg以上、あるいは拡張期血圧が90mmHg以上続く場合、妊娠高血圧症候群の疑いがあります。重症化すると,けいれん発作、脳出血、肝臓や腎臓の機能障害などをおこす可能性があります。胎児発育や状態が悪くなることや、胎盤が分娩前に子宮の壁からはがれてしまうこともあります。定期的に健診を受け、きちんと管理しましょう。

3. 尿蛋白

尿の中に蛋白があるかどうかを調べる検査です。尿に蛋白が出ると陽性(1+,2+,3+)となり、プラスの数が多いほど尿中に蛋白が多いことを表します。疲れなどで蛋白が出ることや尿の濃さにより強陽性となることもありますが、腎臓の機能が悪くなっているときもあります。連続して陽性の場合や強陽性の場合や、高血圧に伴って陽性の場合には、腎臓病や妊娠高血圧症候群の可能性も考えられますので定期的にきちんと検査を受けましょう。

4. 尿糖

尿に糖が出ると陽性(1+、2+、3+)となり、プラスの数が多いほど尿中に糖が多いことを表します。妊娠中は、尿に糖が漏れやすい状態ですが、血液中に含まれる糖が多い(高血糖)ときもあります。陽性が続く場合や強陽性の場合には糖尿病合併妊娠、妊娠糖尿病などが疑われ、精査が必要となります。尿検査の前に甘い物や炭水化物をたくさん食べると、一時的に陽性になる場合もあります。

5. 子宮底長

子宮底長とは、恥骨の上端から子宮の一番上(子宮底)までの長さです。超音波検査を行った場合や妊娠16週頃までは、子宮底長計測は省略可能です。子宮底長は、妊娠20週では15cm程度ですが、満期では30cm以上になります。子宮底長は、胎児の発育や羊水量の目安として用いますが個人差も大きいです。

6. 腹囲

腹囲は仰向けに寝ておへそまわりの一番膨らんでいるところを測ります。基準値がなく、有用性に関しても不明なため、計測は省略可能です。胎児の発育や羊水量のおおよその目安となったり、脂肪のつき具合や浮腫などを発見するきっかけになったりすることもあります。

7. むくみ(浮腫)

足のすねを押し、へこみ具合をみて、診断します。出産前にはおなかが大きくなり、子宮が圧迫されて血液循環が悪くなるので、どうしても体がむくみやすくなります。むくみは妊娠にともなう生理的な変化ともいえ、むくみだけでは赤ちゃんの予後には影響しません。しかし、早い週数から認める場合や急激に発症する全身性のむくみには注意が必要です。

妊娠中の決まった時期に行われる検査

妊娠中の決まった時期に行われる検査には表1のようなものがあり、以下のような目的があります。
A)妊娠初期
●妊娠中の管理が母児の予後を改善する病気を見つける
●健診施設の選択(高次施設での管理が必要な母児を見つけます)
●救急対応の準備
●感染予防

B)妊娠中期
●妊娠経過に伴う変化がないか確認

C)妊娠後期
●お産の方法の決定や,お産のときに母体への処置の必要性の確認
●授乳やワクチン等新生児への対応の必要性の確認

施設の役割や考え方により検査項目や施行時期が一部異なります。検査には費用の一部を公費で負担するものもあります。母子手帳と一緒に交付されたものに目を通しておきましょう。それぞれの異常については妊娠中のトラブル、妊娠合併症のページをご覧ください。

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