妊娠中、産後のケア (予防接種、薬・サプリメント、歯科ケア、肌ケア、おっぱいケア、母乳育児、早産児)

公開日:2016/07/28

最終更新日:2021/10/25

春名 めぐみ 先生

この記事を監修したドクター

東京大学大学院医学系研究科母性看護学・助産学教授(助産師)春名 めぐみ 先生

妊娠中・産後の予防接種について

妊娠中に受ける人が多いのはインフルエンザワクチンです。これは不活化ワクチンなので妊娠中でも受けられます。一方、生ワクチンは妊娠中に受けることができません。
特に気をつけたいのは、風疹です。妊娠第20週頃までの妊婦が風疹ウイルスに感染すると、胎児にも感染して、赤ちゃんが先天性風疹症候群という病気を発症する場合があります。風疹抗体価が陰性、あるいは赤血球凝集抑制法(HI法)で16以下の低抗体価であった場合は、家族や職場にも予防接種に協力してもらい、予防を心がけましょう。
また、次の妊娠のことや、周囲の妊娠可能性のある方のことを考えて、できれば産後すぐにMRワクチンを受けておきましょう。MRワクチンを受けても授乳は可能です。受ける回数は、子どものころを含めて2回。記録がない場合は、受けていないと考えます。
昭和54年4月1日以前に生まれた男性は、風疹の予防接種を受けていません。風疹の抗体を持っていない人が大勢います。妊婦が風疹抗体陰性あるいは低抗体価で、パートナーも抗体がなければ、パートナーから妊婦に風疹をうつすこともありえます。家族が感染源とならないよう、できるだけ早く(理想的なのは妊娠前です)MRワクチンを受けておきましょう。
職場での感染もありえますので、妊婦の同僚にも風疹予防の協力をお願いしましょう。風疹ワクチンは、生ワクチンなので、妊娠中に受けることができません。風疹抗体価の低い妊婦さんは、産後すぐのワクチン接種をおすすめします。また妊娠を希望する女性は必ずワクチンを接種しましょう。

薬 妊娠初期は注意、しかし中期以降は多くの薬が可能です

妊娠・授乳期に薬の使用を避ける妊婦さんが多いですが、実際は多くの薬が使えます。自己判断で服薬を停止せず、産婦人科医と相談して薬や症状とつき合いましょう。
薬に気をつけなければならない時期は妊娠初期から13~14週までの、胎児の臓器が形成される時期です。薬だけではなく、環境要因も胎児形態異常にかかわる可能性があります。この時期は必要不可欠な薬以外はあえて服用することは避けたほうがいいでしょう。
妊娠中期、後期になっても、妊娠・授乳期の薬を躊躇する人が、日本では数多くいます。しかし、実は医師が処方する薬は、妊娠期・授乳期で絶対に服用してはいけない薬は少なく、実際には多くの薬が使用可能です。担当の産婦人科の医師が処方した薬は、安全に服用できます。産婦人科以外の医師に処方してもらう場合は、妊娠あるいは授乳期であることを必ず申し出てください。国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」https://www.ncchd.go.jp/kusuri/に相談すれば、詳細な情報を提供してくれます。
このホームページには、妊娠中あるいは授乳中に使用できる薬についても紹介されていますので参考にしてください。

サプリメント 妊娠初期の葉酸は有効です

サプリメントの中で、妊娠中に有用というエビデンスがあるのは葉酸だけです。葉酸が有用な時期は極めて妊娠初期に限定されているので、妊娠が判明してからでは効果は期待できません。妊娠を希望する時点から、葉酸を開始することが大切です。
その他のサプリメントについての妊娠・胎児への効果は明らかではないので、あえて服用する必要はありません。特に、ビタミンAの大量摂取は、胎児への悪影響が報告されているので服用は控えましょう。鉄剤、カルシウム、EPAなどは、有効な可能性のあるものもあるので、主治医の産婦人科医と相談してください。

歯科医とのつき合い方 妊娠中は虫歯や歯周病になりやすい

妊娠中は、女性ホルモンの変化やつわりの影響で、虫歯や歯周病になりやすい時期です。歯科にかかるときには、治療と予防の方法やその時期について相談しましょう。
妊娠期には、口の中の具合が悪くなりやすく、歯や歯肉の病気が起こりやすくなります。つわりのために、歯みがきが困難で、食事の好みが変わり、食習慣が変化します。唾液の分泌や性質が変化し、女性ホルモンの増加によって特定の細菌が増えたりします。その結果、虫歯ができたり、歯周病(妊娠性歯肉炎)が発症したりします。
妊娠時の歯科治療には、実施が可能な時期、方法があります。歯科医師に十分に相談して、適切な治療と予防をすることをおすすめします。
さらに、歯周病の妊婦さんは、早産および、低体重児出産のリスクが高く(約7倍に)なります。事前に、歯周病治療を受けておくことが大事です。妊娠を考えるときには、歯科を受診して、必要な予防や治療をしておきましょう。

妊娠中のお肌のケア

妊娠中のお肌には、さまざまな変化が起こります。シミや妊娠線には早めのケアがおすすめです。妊娠中のお肌は、女性ホルモンの増加、新陳代謝の活発化、メラニン色素の増加の3つの大きな特徴によって、さまざまな変化があります。
まず、女性ホルモンのエストロゲン、プロゲステロンが増えるので、ホルモンの作用によって皮脂の分泌が過剰になって、ニキビができやすくなります。また新陳代謝が盛んなため、汗をかき、かゆみや発疹が出やすくなります。
メラニン色素は、メラノサイトという色素細胞が、女性ホルモンによって刺激されて分泌されますが、そのために妊娠中はシミやそばかすが増えたり、わきの下、乳首、外陰部などが黒ずんできます。正中線(おなかのまん中の線)が濃くなる人もいます。妊娠中は、皮脂の分泌がさかんなのに、乾燥しやすく敏感です。身体をタオルでゴシゴシこすらず、優しくぬるま湯で洗い流し、刺激の少ないローションや乳液、オイルなどで保湿・保護します。シンプルなケアをこまめにしましょう。ふだんと同じ化粧品で大丈夫です。日光に当たるとシミが増えやすくなります。外出するときには、日焼け止め、日傘、帽子、サングラスなど万全の防御を。柑橘類、じゃがいも、パプリカなど、ビタミンCもたっぷり摂りましょう。
妊娠線は、急激な皮膚の伸びに皮下のコラーゲンや弾性線維の伸びが追いつかず、断裂してしまうことによって起こる、赤紫色のギザギザした線です。皮膚を柔らかく、伸びをよくすることが大切。専用のマッサージクリームもあります。体重コントロールも大切です。
妊娠中は、女性ホルモン作用によって、頭髪のボリュームが出て、毛深くなることもあります。産後は逆に、脱毛が進みます。出産前からアミノ酸系シャンプーやノンシリコン、ローズウォーターやクレイ等が含まれた質のよいシャンプーを使って抜け毛対策を心がけましょう。

おっぱいのケアと手入れ

妊娠経過にともない、乳腺・乳管組織が増殖し、乳房や乳頭、乳輪が大きくなり、母乳をつくる準備が始まります。出産後は、乳房が急激に発育し、乳汁分泌が始まります。妊娠中期(24週頃から)になったら助産師に、赤ちゃんが吸いやすい乳首になっているかチェックしてもらいましょう。出産後すぐに赤ちゃんへの授乳が始まるので、妊娠37週をこえて正期産の時期になったら、乳房マッサージや乳頭の手入れをして備えましょう。
乳頭の手入れも大切です。乳頭の先には数個から数十個の乳口(乳汁の出口)があり、妊娠前は栓をしたような状態になっています。この栓を取り除いて、乳口を開いておくのです。入浴時にリラックスした状態で指の腹を使って、ゆっくりと行ないます。乳口が開いていないと乳腺炎の原因になります。
乳頭刺激をすると、子宮を収縮させるホルモンが出て子宮が硬くなりますので、健診で安静を指示されているとき、おなかが急に張ってきたとき、おりものが急に増えたり血が混ざるようなとき、手入れをしていて気分がよくないと感じたり、赤ちゃんの胎動が激しくなったりするときには、控えましょう。陥没・扁平乳頭であっても、赤ちゃんへの授乳は十分可能ですので、心配な方は、助産師に相談してみてください。

母乳育児 初乳が病気から守ります

母乳には、大切な栄養素がたくさん含まれています。母乳育児は、お母さんと赤ちゃん、どちらにもいいことがたくさんあります。
妊娠中に助産師に乳房の手当を教えてもらいましょう。乳首をつまむと、少し黄色をおびた透明な乳汁がでます。これが初乳です。赤ちゃんが感染しないように守る、母親由来の重要な免疫グロブリンという物質や、成長因子が多く含まれています。出産後3~4日すると、脂質および糖質が豊富に含まれる成乳に変わります。
出生直後の赤ちゃんの頬に乳首を触れさせると、反射的に吸いついてきます。赤ちゃんがおっぱいを吸う刺激によって、お母さんのオキシトシンという愛情ホルモンの分泌につながります。子宮を収縮させたりする働きがあり、産後の子宮の回復も促進されます。授乳により心理的に母子の絆が強くなります。さらに母乳栄養を行うと、お母さんも多くの病気リスクが減少。糖尿病、肥満、メタボリックシンドローム、消化器炎、気管支喘息、アレルギーなどに効果があります。お母さんが一部の感染症や服薬している薬の都合、赤ちゃんが小さく生まれたなどのさまざまな事情から、母乳育児をしたくても、母乳栄養で育てられないケースもあります。
最新の人工乳(粉ミルク)は、母乳を参考に、赤ちゃんに必要な栄養素を満たすよう開発されています。母乳をあげるだけが、お母さんの役割ではありません。

母乳トラブル おっぱいを溜めたままにしないことが大切

おっぱいを空にすることが乳腺炎の予防になります。量が少ない人は、赤ちゃんがおっぱいを吸ってくれる工夫をしましょう。お産の後、赤ちゃんが早い時期からおっぱいを吸ってくれると、母乳をつくったり、出したりするホルモンがたくさん出て、母乳の量も後々増えてきます。

逆に、おっぱいをためたままにすると、母乳の量は減ってしまいます。なんらかの理由で赤ちゃんにすぐに吸ってもらうことができない場合には、なるべく早期から搾乳して母乳を出すようにします。なるべく「空」になるまで赤ちゃんに飲んでもらうか、授乳後に搾乳して「空」に近づけるようにしておきます。

授乳中の女性が起こりやすい病気に乳腺炎があります。産後3か月までに、10人に1人、全授乳期間を通じると3~5人に1人が経験するとも言われています。乳房の熱感、痛み、発赤、しこり、腫れ、全身の不調(発熱、頭痛、だるさ)などの症状がみられます。母乳を適切におっぱいから出すことができないために起こることが多いようです。乳腺炎は、おっぱいから母乳を出すことが予防になりますし、治療にもなります。赤ちゃんがしっかり乳首をくわえて母乳を飲みとれる授乳姿勢で、授乳間隔を空けすぎないこと、また授乳姿勢をかえて赤ちゃんがいろいろな方向から母乳を吸えるようにすることが重要です。

また、乳腺炎になったおっぱいから先に授乳するなど、飲み残しがなくなるための工夫をします。心地よいと感じるならば、授乳と授乳の間に保冷剤をタオルにくるむなどして冷やしてもよいでしょう。乳腺炎の症状が授乳しても治まらない場合は、早めに母乳相談を行っている助産師に相談するか、医療機関を受診してください。

早産児 26週以降出生児の9割以上は救命できます

医療技術の進歩により、早産児の多くが救命できるようになりました。小さな赤ちゃんは入院期間が長いですが、家族の一員として成長を見守ってください。NICU(新生児集中治療室)では、早産児を救命するだけでなく、早産児に多い未熟児網膜症の進行を防いだり、慢性肺疾患など呼吸器の合併症の悪化を防いだりして、「インタクトサバイバル(後遺症なき生存)」を目指す取り組みを行っています。発育(からだの成長)についても、積極的な栄養投与を行い、予定日に生まれた子と遜色がないように育てようとする方針が主流となっています。
NICUを退院する目安は、一般的に、36~37週以降に相当する週数になり、自分で哺乳ができること、酸素投与などの治療が必要ないことが条件です。退院後は、外来で発育・発達(首の座り、寝返りなど)を評価するフォローアップが行われます。
早産児は発育や発達が遅れる場合があるのは事実ですが、適切な発達支援につなげ、家庭での生活や集団生活への適応を目指していきます。早産児のお父さんには、何よりまず、お母さんを支えてあげてください。早産で産んだお母さんは、自分を責めがちですが、誰のせいでもありません。できるだけ面会に行って、赤ちゃんに触れたり抱っこしたりしてください。赤ちゃんはたくましく成長していきます。哺乳ができるようになった、体重が増えてきた、目を開けてキョロキョロするようになったなど、赤ちゃんは日々変化していきます。
早産の赤ちゃんにとって、母乳はいちばんの栄養です。生まれたてのときはなかなか母乳が出ないかもしれませんが、1滴、2滴でも出れば、綿棒で口の中に塗布することができます。搾乳がプレッシャーになるなら、まず赤ちゃんに会って、親子関係を育むことを第一にしましょう。

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