不安症群
公開日:2017/04/07
最終更新日:2021/10/18

この記事を監修したドクター
東京大学医学附属病院精神神経科 特任講師(病院) 市橋 香代 先生
不安症とは
「不安症群」というのは、精神的な症状が出る疾患の中で、不安を主症状とする疾患群をまとめた名称です。その中には、特徴的な不安症状が出るものや体の病気や物質によるものなどが含まれています。
「不安症」は以前「不安障害」と言われていました。両者は同じ意味になりますが、「障害」という言葉が、重篤で治らない疾患などと誤解されやすいことから、最近は「不安症」と呼ぶことが推奨されています。不安症は、不安・恐怖の異常な高まりによって、精神的につらくなり生活にも支障をきたすような疾患の総称です。
米国精神医学会の精神疾患診断基準DSM-5によれば、以下のような疾患が不安症群に含まれます。
・パニック症
・広場恐怖症
・限局性恐怖症
・社交不安症
・全般性不安症 など
不安症群には「○○不安症」のほかに「○○恐怖症」があり、不安だけでなく恐怖も対象となっています。不安と恐怖は一見似たような状態を指すように思われがちですが、正確には不安は「漠然とした特定の対象がない恐れの感情」であり、恐怖は「はっきりとした外的対象のある恐れの感情」です。いずれも「恐れ」という感情がベースになって、行動の不具合や身体的症状が出現します。
かつては強迫症や心的外傷およびストレス因に関連したものが不安症に含まれていましたが、現在は別のグループに分類されています。
不安症の診断
不安症は「何らかの不安や恐怖によって生活に支障がでたり、苦しい思いをする」ことが続くと診断されます。「生活に支障がでるような」不安や恐怖から行動に制限がかかったり、疲労感や睡眠障害などの身体的な症状が続いている場合は、不安症の可能性があると言えます。
「ほとんどの時間、心配や緊張・不安を感じて、悩まさる」、「頻繁に緊張・イライラし、睡眠の問題がある」、「湧き上がってくる不安や恐怖を『自分でコントロールできない』感じがある」など、これらの質問への答えが「はい」の場合は、まずは精神科や心療内科を受診することもご検討ください。
不安症の原因
不安症の原因ははっきりと解明されておらず、身体的要因と心理的要因の両方が関連していると考えられています。環境ストレス因に対する反応として不安が出ることもありますが、誘因がわからないこともあります。
また、体の病気や薬物、カフェイン、アルコールなどの物質の影響でも不安症状が出ることが知られています。
一方で、近年の脳研究の進歩により、心理的背景だけでなく様々な脳内神経伝達物質系が関係する脳機能異常(身体的要因)があるとする説が有力になってきています。
不安症の治療法
不安症の治療では薬物療法と精神療法が知られています。
薬物療法は、「今現在出ている症状を抑える」という点では、ひとまず日常生活を送れるようにするために有効な方法です。ただ、出ている症状を抑えるだけなので、例えば熱が出た時に解熱剤を飲んで熱を下げるのと同じように「熱の原因はなくなっていない」ことを理解して服用する必要があります。薬物療法で症状が一時的になくなっても、その症状を引き起こしている根本的な原因が解決できたわけではありませんので、薬で安心できる状態を保ちつつ、精神療法で根本解決を図ることが重要です。
薬物療法では、抗うつ薬としても使用されているセロトニン再取り込み阻害薬の一部が日本でも健康保険適応となっています。以前よく用いられていたベンゾジアゼピン受容体作動薬(抗不安薬のうちひとつのグループ)は眠気、依存性、記憶障害、アルコールとの相互作用などの懸念があるため、慎重な使用が望ましいです。またいくつかの薬では、内服中の自動車運転が禁止されていますので、薬剤選択には注意が必要です。
薬物療法以外の治療として、病気の特徴についての情報提供(疾患教育)や、不安症のタイプに合わせた精神療法などが知られています。不安や恐怖を呼び込みやすい「考え方のくせ」に気付いて普段からそれを修正するようにしたり、不安を避けずに乗り越えた経験を確認する中で、生活に対する症状の影響を少なくしていきます。
不安障害は、いわば自分でお化け屋敷を立ててその中に迷い込んでいるような状態です。自分で作ったお化け屋敷なのだから、「自分で取り壊せる」ということに気付くことが治療の第一歩となります。
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