不安症(不安症群)

公開日:2017/04/07

最終更新日:2024/06/27

国立成育医療研究センター

この記事を監修したドクター

子どもと妊婦さんのための病院と研究所国立成育医療研究センター

共著:市橋 香代 先生

「不安症(不安症群)」は、不安を主な症状とする精神的な疾患群をまとめた名称で、不安で眠れない、行動に制限がかかるなど、日常生活に支障をきたすような病気を言います。

不安症とは

「不安症」は、以前は「不安障害」と言われていました。これらは同じ意味になりますが、「障害」という言葉が、重篤で治らない疾患と誤解されやすいことから、最近は「不安症」と呼ぶことが推奨されています。
不安症は、不安・恐怖の異常な高まりによって、精神的につらくなり、日常生活に支障をきたすような疾患の総称です。
米国精神医学会の精神疾患診断基準DSM-5-TRによれば、以下のような疾患が不安症に含まれます。
・パニック症
・広場恐怖症
・限局性恐怖症
・社交不安症
・全般性不安症  など

不安と恐怖の違いは?

不安症には「○○不安症」のほかに「○○恐怖症」があり、不安だけでなく恐怖も対象となっています。不安と恐怖は似たような状態を指すように思われがちですが、不安は「漠然とした特定の対象がない恐れの感情」であり、恐怖は「はっきりとした外的対象のある恐れの感情」です。いずれも「恐れ」という感情がベースになって、行動の不具合や身体的な症状があらわれます。
以前は、強迫症や心的外傷(トラウマ)、ストレスに関連したものが不安症に含まれていましたが、現在は別のグループに分類されています。

不安症の症状と診断

不安症は「何らかの不安や恐怖によって生活に支障がでたり、苦しい思いをする」ことが続くと診断されます。生活に支障がでるような不安や恐怖から行動に制限がかかったり、疲労感や睡眠障害などの身体的な症状が続いている場合は、不安症の可能性があると言えます。
「ほとんどの時間、心配や緊張・不安を感じて悩まされる」、「頻繁に緊張・イライラし、睡眠の問題がある」、「湧き上がってくる不安や恐怖を『自分でコントロールできない』感じがある」などで、精神的な不調のために日常生活に支障がある場合は、精神科や心療内科を受診しましょう。
もし、動悸や呼吸困難などの症状があれば、まず内科などで体の病気を調べることも大切です。

不安症の原因

不安症の原因ははっきりと分かっておらず、身体的要因と心理的要因の両方が関連していると考えられています。環境やストレスに対する反応として不安が出ることもありますが、何によって引き起こされるのか分からないこともあります。
また、体の病気や薬物、カフェイン、アルコールなどの物質の影響で不安症状が出ることが知られています。
一方で、近年の脳研究の進歩により、心理的背景だけでなくさまざまな脳内神経伝達物質系が関係する脳機能異常(身体的要因)があるとする説が有力になってきています。

不安症の治療法

不安症の治療では「薬物療法」と「精神療法」が知られています。
「薬物療法」は、今現在出ている症状を薬で抑えるものです。しかし、出ている症状を抑えるだけなので、例えば熱が出た時に解熱剤を飲んで熱を下げるのと同じように「根本的な原因はなくなっていない」ことをしっかり理解し服用しましょう。薬で安心できる状態を保ちつつ、「精神療法」で根本的な解決を図ることが重要です。
「薬物療法」では、抗うつ薬としても使用されているセロトニン再取り込み阻害薬の一部が日本でも健康保険適応となっています。一時的に不安を抑える「抗不安薬」の多くは、眠気、依存性、記憶障害、アルコールとの相互作用などの懸念があるため、慎重な使用が望ましいと考えられています。またいくつかの薬では、内服中に自動車の運転が禁止されているものもあるので、薬の選択には注意が必要です。
一方、精神療法は、会話などを通じて行う治療のことです。不安症に対する精神療法の例として、認知(ものの受け止め方や考え方)や行動に働きかけて、気持ちを楽にしていく「認知行動療法」があります。病気の特徴についての情報提供(疾患教育)や、不安や恐怖を呼び込みやすい「考え方のくせ」に気付いて普段からそれを修正するようにしたり(認知の修正)、あえて不安な状況に身をおいて、実際には不安に思っていたことが起こらないことを確認して自信をつけること(暴露療法)などで、生活に対する症状の影響を少なくしていきます。
不安症は、いわば自分でお化け屋敷を立ててその中に迷い込んでいるような状態です。自分で作ったお化け屋敷なのだから、「自分で取り壊せる」ということに気付くことが治療の第一歩となります。

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