乳がん

公開日:2016/05/24

鶴賀 哲史 先生

この記事を監修したドクター

東京都立駒込病院 緩和ケア科、東京大学医学部附属病院 届出研究員鶴賀 哲史 先生

日本女性の乳がんは欧米に比べ、閉経前が多いのが特徴です

乳がんは、日本では戦後急激に増加し、年間約7万2500人が発病し、1万3千人が命を落としています。今後しばらくは、罹患率、死亡率ともに上昇が続くと予測されています。
日本女性の特徴は、欧米と異なり、閉経前の乳がんが多く、40代後半に最も頻度が高く、20代、30代でかかることも珍しくなく、家庭や社会で働き盛りを襲う疾患です。特に、肥満傾向、初潮が早く閉経が遅い(月経期間が長い)、初めての妊娠・出産が遅い、出産回数や授乳経験が少ない、乳がんの家族歴がある、良性乳腺疾患の既往があるなどの人がかかりやすい傾向にあります。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群について

がんの発症に、特定の遺伝子の変異がかかわっているタイプの乳がんのことを「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」といい、乳がん全体のうち約5~10%を占めます。
遺伝子相談を行い、遺伝子検査の結果、乳がんの発症と関連する遺伝子の変異が認められた場合、経過観察のための受診や薬による予防、乳腺や卵巣の予防的切除などが検討されます。

*「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)」については、詳しくは、『一般社団法人 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構』のWebサイトをご覧ください。
https://johboc.jp

*遺伝性のがんについて詳しくは、『がん情報サービス』「遺伝性腫瘍・家族性腫瘍」をご覧ください。
http://ganjoho.jp/public/cancer/data/genetic-familial.html

無症状で、検診で発見された乳がんは治る可能性が高いです

しこりに触れる約83%、乳頭分泌物(出血含む)約5%、痛み約2%、自覚症状はなく検診で異常を指摘10%、その他となっています。
しこりの中には、線維腺腫やのう胞などの良性腫瘍もあり、しこり=乳がんとは限りません。乳頭分泌が血性の場合や常に単一の乳管から液が出るなどは、がんの可能性も考えるべきです。乳房痛は、ホルモンの影響がほとんどで、がんを疑わせる症状ではありませんが、痛いから、がんではないという思い込みは正しくありません。
無症状でも超音波やマンモグラフィで、小さなしこりや石灰化などを指摘され、発見される乳がんもあります。無症状で、検診で発見された乳がんは、根治可能な早期がんが多く、生存率の向上に結びつきます。マンモグラフィ併用検診の意義は高いといえます。

マンモグラフィと超音波、両方受けることで精度が高まります

乳がん検診で異常があった場合には、視触診、マンモグラフィ、超音波、穿刺吸引細胞診などで診断します。
視診では、乳頭のひきつれ、陥没、手を挙げたときにえくぼ様の皮膚の引き込みや発赤がないかをみます。触診では、しこりの有無、乳頭分泌の有無などをみます。マンモグラフィは、超音波ではわからない石灰化を発見することが可能で、逆にマンモグラフィで見えない濃度の濃い乳腺の小さなしこりは、超音波で発見可能な場合が多く、相補的な関係にあります。
マンモグラフィで石灰化だけが見られ、しこりがない場合は、マンモトームで組織生検を行い、早期がんが発見できる場合もあります。腫瘍の存在が疑われたら、病変部に穿刺吸引細胞診を行い、良性か悪性かを決定します。
がんと診断されたあとは、遠隔転移の有無を検索するため、CT、シンチグラム、MRI検査を行います。

どのような治療がありますか?

局所療法である手術、放射線療法と、全身療法であるホルモン、化学療法などが行われます。
手術は、乳房温存と乳房切除があり、生存率には差がありません。温存術の場合、整容性に優れ、乳房喪失による精神的ダメージも少ないことが特徴ですが、腫瘍の取り残しや多発による再発の危険性があり、術後、放射線照射を併用し再発の危険性を減少させます。
生命の予後を決定するのは、遠隔転移の発生の有無で、遠隔転移減少のため、再発リスクが高い場合は、術後補助療法として約6か月間の化学療法を行います。
ホルモン受容体によってがんがエストロゲン、プロゲステロンというホルモン刺激の影響を受けるかを確認し、陽性の場合はホルモン剤が有効で比較的長期間投与します。
腫瘍が大きく根治できない場合などは、化学療法を術前に行い、腫瘍を縮小させ手術を行う方法もあります。生命予後には術前でも術後でも差はないことも多く、化学療法は全例に有効ではないので、腫瘍が大きくなる場合もあります。主治医と十分な相談のうえで治療することが重要です。

治療の副作用対策も進んできています

わきの下のリンパ節をとる(腋窩リンパ節郭清を行う)と、リンパ浮腫や違和感が起こる場合があります。この弊害をなくそうと、センチネルリンパ節といって一番目に流れ込むリンパ節だけを調べ、ここに転移がない場合はリンパ節転移がほぼないといえるので、リンパ節切除を省略する方法が普及しています。
化学療法には、悪心、嘔吐、白血球減少、脱毛など、ホルモン療法には更年期の症状や骨粗鬆症、わずかながら子宮体がんの発生などもみられますが、再発を予防する大きな意義があります。副作用対策のためのさまざまなお薬も開発され、治療中のQOLを上げるための方法が進んできています。乳房切除後の変形に対しては、乳房再建も大変有意義です。
乳がん治療は、主治医との信頼関係、十分に納得した治療法の自己選択、疾患の特徴と病状の正しい理解が何より大切です。

さらに詳しい情報は『がん情報サービス』「乳がん」をご覧ください。
http://ganjoho.jp/public/cancer/breast/index.html

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