AYA世代のがん
公開日:2024/02/07
この記事を監修したドクター
東京都立駒込病院 緩和ケア科、東京大学医学部附属病院 届出研究員鶴賀 哲史 先生
AYA世代のがん
AYA(Adolescent and Young Adult)世代とは15歳から39歳までの世代を指します。がん診療において特別な配慮が必要な世代のため、さまざまな対策が進められています。なぜ特別な配慮が必要なのでしょうか?AYA世代のがん診療を考える上でのキーワードは「希少性」と「多様性」です。
「希少性」
がんの主な原因は加齢や生活習慣であり、がんは成人とくに高齢者に多い病気です。女性では30歳、男性では50歳を超えてから、がんは加齢とともにどんどん増えていきます。AYA世代はがん患者さんが増え始める世代ではありますが、AYA世代のがん患者さんの数は全世代のうちおよそ3.7%にすぎません。
「多様性」
AYA世代は小児期と壮年期のはざまで、生活が大きく変化する時期です。高校、大学に進学する人もいれば、社会に出て仕事につく人もいます。また結婚して子供を持つことを選ぶ人もいれば、家庭は持たずにひとりの時間を充実させたいと考える人もいます。個人差が大きい世代で、抱える問題が患者さんによって異なるため、それぞれの患者さんにあわせた対応が大切です。
AYA世代のがんの特徴
15歳から39歳までのAYA(Adolescent and Young Adult)世代は、小児期と壮年期の狭間です。AYA世代の人がかかるがんには、小児期に多いがんも成人期に多いがんも含まれます。
かかりやすいがんの種類(全世代)
がんは高齢のひとがなりやすい病気です。2022年の日本国内のデータでは、大腸がん、肺がん、胃がんの順番です。男性に限ると、前立腺がん、胃がん、大腸がん、女性に限ると乳がん、大腸がん、肺がんの順番となります。(*1)
「小児期」に多いがん
0歳から14歳までの小児期がかかりやすいがんは全世代と比較すると大きく異なっています。少し古い日本国内のデータですが、白血病、脳腫瘍、リンパ腫の順番となっています。(*2)
「AYA世代」に多いがん
15歳から19歳までは、白血病、胚細胞腫瘍・性腺腫瘍、リンパ腫の順番で、14歳以下の小児期と似ています。小児期に多いがんが遅れて発症すると考えられます。一方で、20歳から29歳までは、胚細胞腫瘍・性腺腫瘍、甲状腺がん、白血病の順番となり、傾向が少しずつ変わってきます。30歳から39歳までは、乳がん、子宮頸がん、胚細胞腫瘍、性腺腫瘍となり、大きく変わります。(*2)比較的高齢の成人に多いがんが早めに発症すると考えられます。注目すべきことは、1位も2位も女性のがんだということです。一生のうちでは男性が女性よりもがんにかかる頻度は高いのですが、AYA世代に限ると女性が男性よりもがんにかかりやすいです。少し遅れて発症した小児期のがん、早めに発症した成人期のがんという特徴が、AYA世代のがんに対する対策を考える上での「手掛かり」になります。
*1 がんの統計2023 (公益財団法人 がん研究振興財団)
*2 Katanoda K, Shibata A, Matsuda T, Hori M, Nakata K, Narita Y, Ogawa C, Munakata W, Kawai A, Nishimoto H. Childhood, adolescent and young adult cancer incidence in Japan in 2009-2011. Jpn J Clin Oncol. 2017 Aug 1;47(8):762-771.
AYA世代のがんの診療
15歳から39歳までのAYA世代は、小児期と壮年期の狭間の世代です。一般的に14歳までの小児期のがん患者さんは小児専門の診療科が診断、治療を担当します。がんの診断や抗がん剤の治療は小児科が、手術治療は小児外科が行います。放射線治療は小児科と放射線科で協力して行います。治療が終わった後は、15歳以降も小児科や小児外科が経過観察することもありますし、成人の診療科に引き継ぐこともあります。
AYA世代、特に15歳から20歳までのA世代では、小児期のがんと似た特徴があります。過去に米国で行われた研究で興味深いものがあります。A世代の白血病の患者さんに小児科の治療方法で治療した場合と成人科(この場合は血液内科)の治療方法で治療した場合の治療成績を比較し、小児科の治療方法で治療した患者さんの方が成人科の治療方法で治療した患者さんよりも治療成績が良いことが報告されました(*1)。AYA世代の患者さんは15歳以上なので、成人の診療科が治療することが多いですが、小児科と連携してA世代に最適な治療方法を選んでいくことの重要性が明らかになりました。
乳がんや子宮体癌など成人期に多いがんの場合でも、AYA世代の患者さんは成人科で一般的な治療方法が推奨されます。しかし成人科の治療方法は高齢の患者さん(平均年齢は50歳〜60歳代)が大半を占める臨床試験で開発された治療法です。AYA世代の患者さんは高齢の患者さんよりも体力がありますので、より強い治療にも耐えられると考えられます。成人期に多いがんのAYA世代の患者さんについても、AYA世代に最適な治療方法を探索する必要があるでしょう。
*1 Outcome of adolescents and young adults with acute myeloid leukemia treated on COG trials compared to CALGB and SWOG trials. W. G. Woods, et al. Cancer 2013 Vol. 119 Issue 23 Pages 4170-9
AYA世代のがん患者さんの悩み
AYA世代のがん患者さんはどんなことで悩んでいるのでしょうか?本邦でのアンケート調査の結果(*1)を紹介します。
15歳から39歳までのAYA世代のがん患者さんの悩みのうち、「今後の自分の将来のこと」「仕事のこと」「経済的なこと」「不妊治療や生殖機能に関する問題」が上位を占めました。同時期にアンケートに回答した15 歳から39 歳までの健康な人たちの悩みは、「今後の自分の将来のこと」「仕事のこと」「経済的なこと」でした。つまり、AYA世代は、がん患者さんも健康な人も、「不妊治療や生殖機能に関する問題」以外は同じような悩みを抱えていました。がんになったとしても、健康な同年代の人たちと同じ悩みを抱えていると考えることもできます。一方で、生死に関わるがんになり、身体的・精神的に負担のかかるがん治療を受けたAYA世代が抱える悩みは、健康なAYA世代の悩みと比較してより切実で深刻な悩みであろうと考えられます。
「不妊治療や生殖機能に関する問題」は、AYA世代のがん患者さん特有の悩みです。がん治療により性行為しづらくなったり、妊娠しにくくなったりする可能性があることを考えると、がん治療を始める段階から様々なタイミングで情報提供を行い、サポートを継続していくことが重要です。
性行為や恋愛の問題については、医療者よりも同年代の同じ悩みを抱えているがん経験者(がんサバイバー)との方が話しやすいかもしれません。患者さんを支援する団体が一般的な情報提供をしたり、同じような経験をしている患者さん同士の交流の場を提供したりしています。ソーシャルメディアに慣れ親しんでいる世代ですので、インターネットを用いたミーティングなどさまざまな取り組みが期待されています。
*1 厚生労働省:厚生労働科学研究費補助金(がん対策推進総合研究事業)「総合的な思春期・若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究」(研究代表者:堀部敬三、研究分担者:清水千佳子) 平成28年度総括・分担研究報告書 2017
AYA世代の遺伝性のがん
15歳から39歳までのAYA(Adolescent and Young Adult)世代のがんは家族歴(同じがんになった家族がいないこと)がない偶発的ながんがほとんどです。一方で、一部の遺伝性腫瘍でAYA世代にがんを発症するものもあります。TP53というがん抑制遺伝子に変異のあるLi-Fraumeni症候群のひとには、乳がん、骨肉腫、白血病、脳腫瘍などが比較的若いうちからできてしまいます。BRCA1、BRCA2というがん抑制遺伝子に変異のある遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)のひとには、乳がんや卵巣がんができますし、ミスマッチ修復遺伝子(MLH1やMSH2など)に変異のあるLynch症候群のひとには子宮体がんや大腸がんができます。
自分が遺伝性腫瘍であることがわかることで、自分自身のがんの治療法選択の参考になることもありますし、新たながんの発症リスクを考慮して予防策(サーベイランス)を考えることができるというメリットがあります。一方で、自分が遺伝性腫瘍であることがわかることに伴い、他の家族(兄弟姉妹や子供など)への影響が懸念されます。特にAYA世代の場合には結婚や妊娠・出産をすることが不安になり、消極的になってしまうかもしれません。遺伝性腫瘍の専門家による「遺伝性腫瘍外来」や「遺伝カウンセリング外来」を受診することで、十分な情報提供や、継続的な心理サポートを受けることができます。
がんゲノム医療の普及により遺伝性腫瘍であることが簡単にわかるようになってきました。がん診療を行う医療チームと遺伝性腫瘍の専門家が連携しながら、遺伝性腫瘍の患者さんを支える仕組みが整いつつあります。
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