現代女性の健康問題

長寿になったが健康寿命は長くない日本女性

飛躍的な長寿化が現代女性の健康の特徴となりました。第二次大戦後にようやく50歳を超えた女性の平均寿命は、その後の高度経済成長によってもたらされた栄養と衛生の改善、感染症の減少、医療の発達などによって、いまや世界で一番長くなり、86歳を超えました。
しかし、その変化が数十年という短い期間にもたらされたため、女性が自立して長い年月を豊かに生きるための知識や知恵、社会の支援体制がまだ追いついていません。

現代の女性は、昔の女性のライフスタイル “女性は成人したら早く結婚して子どもをたくさん産み育て、育て終わったころ寿命がくる”という人生とはまったく異なったライフスタイルを持っています。
現代のライフスタイルは、結婚や出産が遅く、かつ出産数は世界最低レベルですが、就労率は(先進国中では)低く非正規雇用者が多くなっています。
一方、世界一長寿になって、高齢女性の人口割合は増えており、独居老人の経済問題、健康問題が大きな社会負担になっている現状があります。女性は男性よりも長寿ですが、日常生活に支障のない健康寿命はそれほど長いわけではなく、医療や介護を必要とする期間が平均でも10年以上あるのが特徴です。

女性には、男女共通の健康問題~がんや心臓血管系疾患~以外にも、男性とはやや異なった健康問題(骨粗しょう症・骨折、関節・筋肉の変形や弱化、認知症など、女性ホルモンの低下に関連して起こりやすい問題)が多く、すぐに死に到らならなくとも生活の質を著しく落とし、ハッピーとはいえない老後が長いのです。
閉経し、女性ホルモンが失われる50代は、急激にこのような変化が起こってくる要注意期間と言えます。

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妊娠・出産し働く女性の健康問題は未整備な状況です

次に、就労と出産・育児との両立の問題が大きい生殖年代の女性の健康問題も見逃せません。
現代の日本女性は、生殖機能を獲得する10代後半以降も、長い間出産をせず、高等教育を受け、職業につき、キャリアを積んでいきます。ここで増えているのは、子宮内膜症子宮筋腫、卵巣嚢腫、乳がんなど、女性特有の疾患です。
これらの疾患は、月経回数が多くほど、かつ出産数や授乳期間が少ないほど、発症しやすい疾患です。
そのため、いざ妊娠したいときに、これらの疾患が初めて発見され、手術や治療をしながら不妊治療を受け、ようやく40歳代で子どもを得るというケースが増えています。

一方、30~40代の子育て世代の女性が子どもを育てながら仕事も継続してゆくことは、かなり困難な状況があります。日本は、まだまだ妊娠女性、子育て中の女性、疾患をもった女性たちが働きやすい就労環境は未整備な状況といえます。
マタハラ、パワハラ、セクハラと呼ばれるハラスメントにあって就労継続を諦める女性も多く存在しますし、また、たとえ支援制度があっても、継続しづらい職場や家族の雰囲気に“心が折れる”女性が多いようです。
その上、保育園の受け入れが困難な状況も、家事や雑事のほとんどすべてを女性が担う現状も、幼稚園・小学校受験の常態化も、女性の就労の足かせになっているといえるでしょう。

このほか、飛躍的に増えた女性の月経回数にともなうトラブル、月経困難症月経前症候群(PMS)なども、女性の安定した就労を妨げています。これらは、現在の女性の生活の質を落とすばかりでなく、将来の妊娠や継続就労への自信を失わせ、実際に不妊につながる可能性のある子宮内膜症などのリスクを増やして、女性の妊孕力を落としてしまいます。しかし、まだそれらの疾患の実態もつかめていない現状があります。

実現すべき健康像とはどのようなものでしょうか?

WHOは、全ての人にとって実現すべき健康とは、以下のようなものであると謳っています。
Health is a state of complete physical, mental, and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.

また、そのために必要なものとして、国家や保健機関は十分な情報とサービスを提供し、いつでも、だれでも、必要なケアやカウンセリングを受けられることが大事であり、健康を保つことは重要な基本的人権であるといっています。
特に、1994年、カイロで開催された世界人口開発会議、および1995年北京で開かれた世界女性会議を通して、リプロダクティブヘルス/ライツすなわち、女性およびカップルが、望んだ時期の妊娠・出産のみならず、性に関する相談も、周囲との人間関係もサポートとされるべきと宣言されました。

「人々は安全で満足できる性生活を送り、子どもを産むかどうか、いつ、何人産むかを決定する自由をもつ。さらに適切な情報とサービスを受ける権利をもつ。対象は性に関する情報も含まれており、個人と他人の生活の相互関係を向上させることを目的とする」
(Biennial Report 1994-1995. UNDP/UNFPA/WHO/World Bank Special Program of Research, Training Reproduction, WHO, 1996)

世界の女性の健康への意識と日本の目指すべき方向

このような考え方の背景には、50年以上前からアメリカやヨーロッパで取り組まれた人権運動があります。
1960年代には、アメリカで公民権運動が起こり、ケネディ大統領が大統領教書で「消費者の権利」を発表しました。それには個人に保証されるべき権利として、「安全を求める権利」「情報を得る権利」「選択する権利」「意見を聞いてもらう権利」が示されました。
1970年代の女性の権利運動もこの流れを汲み、70年代の終わりにはBoston Women’s Health Book Collectiveの“Our Bodies, Ourselves”が発行されています。
1980年代には、医師や行政も参加して一生涯の女性の健康(Women’s Health)を推進する運動が起こりました。根底にあるのは、「心身の健康は、自分の体を知ることから始まり、自尊感情を育て(self-esteem)、自分で考えて選び(informed choice)、実現していくもの」という考えです。
これが、のちの「健康は人権である」と謳ったリプロダクティブヘルス/ライツReproductive Health/Rightsと、セクシャルヘルス/ライツSexual Health/Rights宣言につながっています。

北欧では、すでに1930年代から健康教育、保健施策が整備されてきました。イギリス、オランダ、ドイツの一部、カナダなどでも、1960~70年代からGP(家庭医)やCAM(代替補完医療)を取り入れた医療制度改革が進んでいました。アメリカでもWomen’s Health(リプロダクティブヘルス/ライツを含む女性の包括的な生涯健康)、Healthy People 21(人々が主体的に実現する、予防を中心とした21世紀の新しい健康像)、Gender Specific Medicine(性差に関する医学研究とそれを反映する医療)が、1980年代~90年代に始まりました。

一方、戦後に急速に経済発展したわが国では、意識変革や健康施策が変更されないまま女性のライフスタイルが変化しており、そのため、患者の意識の変化や新しい健康課題に、健康システムや医療経済が追いついていない面があります。
特に、女性の健康問題は、女性が子どもを産み育て、就労を継続して経済にも貢献しながら、健やかに年老いていくためにも、とても大切な課題となっていますが、まだほぼ手つかずの状況です。不妊になってから、病気になって生活の質が低下してから、医療や福祉によって救済しようとするのでは遅すぎます。経済的にも社会にとって膨大な負担になります。 
そのため、若い世代からの健康教育、健康相談や検診の普及が、疾病医療の前に取り組まねばならない喫緊の課題なのです。2002年ごろ、わが国では女性外来開設への動きがあり、学会でも性差に着目した疾患やリスクの洗い出しが行われました。しかし、あまねく国民全体にヘルスケアの習慣として検診を普及するためには、まず、正しい知識や情報を発信し知ってもらうこと、病気になってからではなく、予防として、また早期発見のための窓口として、健康相談や受けやすい検査の仕組みを開くことが大事です。