妊娠中のトラブル、妊娠合併症

妊娠中の決まった時期に行われる主な検査とその異常をあげていきます。

1. 貧血

血液中の赤血球が少なくなることを貧血といいます。妊娠中は、赤血球の増加に比べそれを浮かべる水(血漿といいます)の量がさらに増加するため、薄まったような状態になっています。いわば見かけ上の貧血になっているともいえます。
貧血の評価にはヘモグロビン濃度(Hb)やヘマトクリット(Ht)などを目安にします。妊娠初期ではHb 11g/dl未満、中期10.5g/dl、後期11g/dl未満での貧血治療が推奨されていますが、かかりつけの先生と相談して下さい。貧血についての対処は、妊娠中は精査より治療を優先し、鉄のお薬を投与することが一般的です。

血液は、濃ければいいという訳ではありません。血液が必要以上に濃い場合、血の塊(血栓)を作り、血管を詰まらせることがあります。帝王切開分娩など血栓を作りやすいお母さんが増加しています。つわり(妊娠悪阻)や極端な安静も脱水から血栓を作りやすいので注意します。また、妊娠初期に血液が濃いお母さんや、妊娠中期に血液が薄まらない、妊娠後期に血液が急に濃くなったお母さんは妊娠高血圧症に注意します。

2. 血小板

血小板とは、血液を固めて出血を止めるために必須のものです。妊娠しただけで血小板が減少するお母さんもいます。血小板数はHELLP症候群や急性妊娠脂肪肝といった妊娠にともなっておきる疾患でも減少します。血小板の数が少ないお母さんは、お産の方法や麻酔方法の検討が必要です。母体の血小板が少ない人の中には、新生児の血小板が少ない人もいます。新生児の血小板の数は母体の検査結果から推測することは困難です。産科・新生児科・内科等で連携して管理していきます。

3. 血糖

妊娠初期に血糖の検査をすることにより、はじめて糖尿病にきづかれるお母さんがいます。妊娠中期(妊娠24~28週)の検査は妊娠糖尿病の発見を目的として検査が行われます。妊娠糖尿病のページも参考にして下さい。

4. 甲状腺

バセドウ氏病に代表される甲状腺機能亢進症(甲状腺機能が高くなっている)は、妊娠適齢期の女性が罹患しやすい病気です。未治療の甲状腺機能亢進症は、流産、早産、死産、低出生体重児、妊娠高血圧症候群、心不全のリスクが上昇します。妊娠初期、一時的に甲状腺機能が高くなっているお母さんがいます。バセドウ氏病と鑑別するために血液検査を行います。
バセドウ氏病合併妊娠では、治療をしていてもバセドウ氏病の原因である抗体が胎盤を通過し、胎児の甲状腺機能亢進症を認めることがあります。胎児の甲状腺機能亢進症の症状には、胎児の脈が早くなる、胎児の甲状腺腫、胎児の発育が悪くなるなどがあります。抗甲状腺薬を用いているお母さんから生まれた児は出生後、母体由来の抗甲状腺薬の移行が途絶える為に、新生児に一過性甲状腺機能亢進症を認めることがあります。
甲状腺機能低下症は流産、早産、児の知能低下との関連が報告されていますが、否定的な意見もあります。
いずれの病態も甲状腺機能の正常化を図ることが肝要で、授乳の制限は不要です。

5. 血液型、不規則抗体

“産科は出血の学問”と言われます。出血してから血液型を調べるのでは間に合わないことがあります。不規則抗体とは、ABO式血液型以外の血液型に対する抗体をいい、検査として、わが国では間接クームス検査が頻用されています。不規則抗体を認める場合、どの血液型に対する抗体かを同定します。不規則抗体は、お母さんに輸血する時に溶血(赤血球が壊れること)の原因となることから、対応する抗原が陰性の赤血球の準備をします。
また、不規則抗体は胎児に溶血おこし胎児貧血の原因となる抗体もあります。抗体価の定期的な測定と胎児貧血の評価を行います。近年は、超音波検査を用いて胎児の貧血の評価を行うこともあります。
不規則抗体の代表にRh血液型の抗D抗体があります。母体Rh(D)陰性かつ胎児Rh(D)陽性例(パートナーがRh(D)陰性例以外の全例と考えてよいでしょう)は、妊娠時に母体に抗D抗体が産生され、次回妊娠時に胎児に溶血性貧血をおこすことがあります。妊娠初期および妊娠28週前後に間接クームス試験を行い、抗体が産生されていないことを確認します。妊娠28週時に間接クームス試験陰性例には、抗D免疫グロブリンを投与し、抗体産生の予防をします。新生児がRh(D)陽性例は、分娩後72時間以内にも抗D免疫グロブリンを投与します。
妊娠7週以降の流産、異所性妊娠(子宮外妊娠)、腹部打撲後、羊水穿刺後にも抗D免疫グロブリンを投与することがあります。

6. 梅毒

近年わが国では、梅毒が増加傾向にあります。梅毒は、ガラス板法あるいはSTS法とTPHA法の2種類の検査で評価します。梅毒感染妊婦には、ペニシリン治療を行います。胎児の症状として、肝腫大.腹水、胎児水腫、胎盤肥厚等がありますが、ペニシリン治療は先天梅毒の予防効果が高いことが知られています。梅毒感染妊婦からの出生児は、先天梅毒の検査を行います。
抗リン脂質抗体症候群等の疾患を有するお母さんは、梅毒に罹患していないのに梅毒検査で陽性になることがあります。これを生物学的偽陽性といい、梅毒治療は不要です。

7. HIV

近年は、HIV感染者のAIDS(後天性免疫不全症候群)発症を長期間にわたり抑制できるようになってきました。さらにHIVの母子感染も、妊娠中から予防対策をとることで避けることが可能になったことから、妊娠初期にHIV検査を行います。
HIV感染スクリーニング検査(精査をする人を見つける検査)は、偽陽性(誤って陽性の結果がでること)が95%あるので、確認検査を行います。HIV母子感染予防には、妊娠中からの抗HIV薬投与を行います。特別な準備の必要性もあることから妊娠36週頃の選択的帝王切開術、人工栄養哺育、新生児へ出生後6週間の抗HIV薬投与が行われます。

8. 風疹

妊娠初期に風疹に感染すると、胎児感染により白内障や緑内障などの眼の症状、心臓病、難聴などを示す先天性風疹症候群(CRS)の原因となります。妊娠初期に風疹の検査を行い、精査をするお母さんを見出します。また抗体価が低いお母さんの家族には、抗体価の測定とワクチン接種をお願いします。前回妊娠時に抗体をもっていても、再感染することがあるので、再度測定します。
風疹の主な症状は、発疹、発熱、リンパ節腫脹、関節痛・関節炎です。潜伏期間は2~3週間、“3日ばしか”のとおり、通常3日で発疹は消失します。幼少時の記憶にある発疹は、診断を誤っている例が少なくないことに注意します。 
妊婦に発疹・発熱を認めないお母さんからの胎児感染率は非常に低く、特にワクチン接種者からは胎児感染例を近年認めていません。また、発疹や発熱を認めても風疹患者との接触の有無や風疹にかかった妊娠週数によりCRS発症のリスクは異なりますので、安易に胎児期に流早産の可能性がある羊水検査、ましてや人工妊娠中絶はしないで下さい。
母体への風疹感染が胎児感染と同じではなく、胎児への感染がCRS発症とおなじではありません。各地区ブロックに定められている2次施設への紹介も可能ですので、かかりつけの先生と相談してください。また抗体価が低いお母さんは、お産後にワクチンを接種しましょう。授乳中のワクチン接種、接種後2か月以内の避妊失敗例でもCRS発症の報告はありません。不妊治療を考えている方は、風疹検査を行いましょう。ワクチン接種歴や検査結果は、原本もしくはコピーを母子手帳や治療記録に貼付しておくと今後の参考になります。

9. トキソプラズマ

妊娠中のトキソプラズマ初感染は、先天性トキソプラズマ症(水頭症、脳内石灰化、眼の症状)の発症につながります。トキソプラズマ抗体陰性のお母さんは、妊娠中初感染の予防が必要です。猫との接触、加熱不十分の食肉の摂取の危険は有名ですが、素手によるガーデニング(土、砂いじり)に注意することはあまり知られていません。
初感染でなくとも長期間抗体陽性を示すお母さんもいます。抗体が高いお母さんは精査を行います。また妊娠中初感染が疑われるお母さんへの投薬は、胎児感染が予防できなくても重症化予防効果があります。

10. CMV(サイトメガロウイルス)

妊娠中CMV感染は、初感染と妊娠前の感染の再活性化ないし再感染があります。胎内感染の頻度及び後遺障害(難聴、脈絡膜炎、脳性麻痺、IQ低下)は、再活性化や再感染では初感染に比べ軽症です。妊娠中の治療に確立されたものはないので、CMVに感染歴のないお母さんは、初感染ハイリスクとして感染予防に以下を行います。
①(特におむつ交換後の)頻回の手洗い
②5~6歳以下の児へのキスをやめる
③若年者と食事、飲料、食器の共用をやめる

11. 子宮頸がん検査

不正出血は、子宮頸がんの否定と切迫早産等産科疾患との鑑別が必要です。妊娠の経過とともに子宮口が後方に位置するため、妊娠後期では検査がしにくく、妊娠初期の子宮頸がん検査がお勧めです。がんを疑う所見がある場合は、妊娠継続も含め個々に対応します。

12. HCV

HCV抗体陽性のお母さんは、選択的帝王切開が母子感染を減少させる可能性があることから、精査を行います。感染予防に授乳制限は不要です。

13. GBS(B群溶連菌)

成人女性の約30%が腟、下部腸管、尿道、咽頭にGBSを保菌しています。保菌母体から感染児が出生する確率は非常に低いと思われますが、いまも生後90日までにおこる新生児感染症ではGBSが最多です。妊娠初期・中期にGBS検出を目的とした培養検査や除菌は不要であり、母体の除菌も考慮されません。

14. HBV

HBs抗原陽性のお母さんは、B型肝炎ウイルスをもっていると考え、肝機能検査、精密検査を行います。出生後12時間以内と生後1か月、6か月に抗HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)を新生児に接種します。

15. HTLV-1

HTLV-1は、成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルスです。母子感染が大半であり、感染後約40年で発症します。抗体検査は、偽陽性が多いことから精密検査を行います。精密検査陽性例は、人工栄養哺乳、凍結母乳栄養、生後3か月以内のみの母乳栄養のいずれかの方法を行うことで母子感染予防が可能となります。

16. クラミジア

初診~妊娠30週の間に子宮頸管のクラミジア抗原検査を行います。産道感染は、新生児結膜炎、咽頭炎、肺炎を起こす可能性があります。男性の検査は検出率が低く、パートナーともども治療を行います。